3Dマスク誕生秘話、本格的なモノづくり未経験で量産化まで実現できた理由:デジタルモノづくり(1/4 ページ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響により、深刻なマスク不足の状態が続いた当初、イグアスは突如、3Dプリンタ製マスク(3Dマスク)のSTLデータを無償公開した。本格的なモノづくりを実践したことのない同社がなぜ3Dマスクの開発に踏み切り、最終的に製品化までこぎつけることができたのか。
深刻なマスク不足から生まれたある動き
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響により、一時深刻な品薄状態に陥ったマスク。不織布製のものだけでなく、布製のマスクまで店頭から消え、多くのメディアでも「マスク不足」の話題が連日のように取り上げられた。幸い、ここ最近は供給も追い付き、店頭で見掛ける機会も増えてきたが、引き続きの飛沫感染の防止・抑制はもちろんのこと、今後起こり得るCOVID-19感染拡大の第2波、第3波を考えると、マスクを着用した生活はしばらく続きそうだ。
マスク不足の状態が続いた当初、ある現象が起きた。マスクをハンドメイド(自作)する動きだ。裁縫が得意な人、あるいは芸能人などが布製マスクを手作りし、それをSNSにアップしたことで「マスクづくり」が波及。市販のマスクが品薄状態であったこともあり、一気に注目を浴びた。
その一方、デジタルファブリケーションツールを活用してマスクづくりを行う動きも見られた。その先駆けとなったのが、IT製品などの販売・サービスを手掛けるイグアスの「3Dマスク」だ。
マスク不足まっただ中の2020年3月下旬、同社が販売代理店として取り扱う3Dプリンタを活用し、洗浄することで繰り返し使用可能な3DマスクのSTLデータを同社Webサイト上で無償公開した(実際の使用には、不織布のインナーとゴムひもも必要)。
今でこそ、いくつかのスタートアップ企業や個人が3Dプリンタ製マスクのデータを公開しているが、イグアスの3Dマスクはそれらよりも早い段階で一般公開されている。現在、3DマスクのSTLデータのダウンロード数は2万件以上に上り(原稿執筆時点)、ついに製品化されるに至った。それが、同年6月に販売開始した「イグアス3Dアウターマスク」だ(同社ECサイト「サプライズバンクドットコム」で購入可能)。
なぜ、本格的なモノづくり経験のない同社が、3Dマスクを製品化できたのか。3Dマスク誕生秘話、そして、イグアス3Dアウターマスク製品化への道のりについて、同社主催ウェビナー「3Dアウターマスク作成秘話」(開催:2020年6月25日)の内容に基づき紹介していきたい。
困っている人たちの力になりたい、3Dマスク開発はこうして始まった
同社は、神奈川県川崎市に拠点を置く、IT製品などの販売・サービスを行う専門商社である。10年ほど前から3Dプリンタの一次代理店として機器販売なども手掛け、3Dプリンタ、3Dスキャナなどをワンストップで体感できる3Dプリンティング施設「イグアス3Dソリューションセンター」も運営している。
マスクづくりのきっかけは、COVID-19の感染拡大に伴う深刻なマスク不足が連日報道されるようになったある日、「うちの施設・設備を活用してマスクづくりができないか?」と発した同社 代表取締役社長の矢花達也氏の一言だ。困っている人たちの力になりたい、との思いから出た言葉だという。
社内には日ごろ販売・サポートしている機材があり、モノづくりに必要十分な形でそろっている。だが、同社はあくまで商社であって、製造業ではない。自ら本格的なモノづくりをした経験はなかった……。試行錯誤の日々が始まったのは2020年3月初旬のことだ。
まずは、一般的な製品開発にならい、形状のラフスケッチを描き、それを基にデザインの検討をスタートさせた。同時に、マスクである以上フィッティング性も重要であるため、3Dスキャナを用いて実際に顔の形状をスキャンし、点群処理ソフトを活用して顔の必要部分だけを抽出、大まかなアウトラインを決め、CAD/モデリングツールで編集を行い、3Dプリンタで造形するという流れで試作を行った。
実際、日中に設計して、夜間3Dプリンタで造形し、翌朝に後処理を行い、午後レビューを実施し、社長の確認・承認を経て、必要があれば設計データを修正して、また夜間3Dプリンタで出力する……というフローを毎日繰り返してきた。そのかいもあって、企画が立ち上がってからわずか1週間ほどで3Dマスクのデータが完成したという。
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