資生堂が考える美しさとイノベーション、ポストコロナの美容と健康の変化とは:モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)
資生堂と「DMM.make AKIBA」共催のオンラインイベント「資生堂×DMM.make AKIBA × スタートアップ 〜ポストコロナ、美とイノベーションどう変わる?〜」が開催された。本稿ではその内容をお伝えする。
在宅だからこそ「おいしいお茶を飲みたい」
スタートアップ企業のLOAD&ROAD 代表取締役社長の河野辺和典氏と資生堂 R&I戦略部 R&I戦略グループ 野田賢二氏による「コロナ禍でのサービスや製品への影響」についての対談では、ライフスタイルの変化などが話し合われた。
LOAD&ROADはアプリと連携し、脈拍、指の温度、環境などをセンシングする技術を搭載したお茶を入れるIoTボトル「teplo」のメーカーである。同製品は、ユーザーの気分や環境に合わせて抽出環境を変化させる「パーソナライズ抽出」が大きな特徴となっている。
対談で河野辺氏は「在宅で仕事をしている人が増えたことで、お茶の消費が増加し、それに伴い『おいしいお茶を飲みたい』というニーズが高まり、在宅中での気持ちの切り替えにお茶が用いられるなどの要因から問い合わせや需要が高まってきている」と現在の状況について語る。一方、野田氏は「化粧品市場は外出自粛やマスクの着用などが広がる中で、口紅やファンデーションの売り上げが低下しているものの、アイメークに関連する商品の売上高はあまり変わらないという状況だ。ただ、美容医療市場は伸びており、ECへのシフトも強まっている」と美容製品の動向を紹介した。
また、心の健康に関しても、化粧にリラックスやいやしを求める人が増加しており「化粧にストレス解消やリフレッシュ効果があることも注目されている」(野田氏)という。さらに、コロナ禍で、ユーザーがより本質的なものを求める傾向が強まっており「『不要不急』という言葉により、何が必要で、何がいらないものかを考え、自分にとって精神的な満足を得られるものを要求する
姿勢がみられる」と野田氏はコロナ禍における市場の変化について述べた。
ポストコロナ時代についても「化粧は見た目を変化させるだけではなく心に働きかける部分も大きい。肌に触れる行為も人をポジティブにすることにつながるなど、内面も改善させる効果がある。その点でプロダクトやサービスの幅が広がったり、多様な連携を図ったりすることで、化粧品が違う姿になる可能性がある」と野田氏は指摘する。今後は、睡眠や運動などのウエルネスとつながり、ホリスティックビューティー(外見の美しさはもちろん、内面の美しさも追求していくもの)をキーワードにした市場の拡大に期待するとしている。
「工場内で人の接触を歩行データと合わせて管理できないか」
センサーやコンピュータが入ったスマートシューズ「ORPHE」を提供するno new folk studioの小林明日美氏、古川裕子氏と、資生堂 インキュベーションセンター ブルースカイイノベーショングループ グループマネージャーの秦英夫氏との「スタートアップと語るカラダの美」をテーマとしたパネルディスカッションでは、健康を切り口にそれぞれの市場の変化について語った。
小林氏はまず「コロナ禍において、自宅で行えるエクササイズや自宅の周辺で手軽に行えるランニングに意識が向いている。潜在的に当社のプロダクトに興味を持ってもらえる人が増えているという印象だ。工場内で人の接触を歩行データと合わせて管理することで、人の接触を減らすことで感染症対策ができないかという問い合わせもあった。そういう新たなニーズも生まれている」と新たな動きについて紹介した。
秦氏は「コロナの前からビューティーとウエルネスはオーパラップしていたが、その領域が拡大するスピードは加速している。以前からウエルネスやインナービューティーへの関心は高まっていたが、その中でニューノーマルに沿ったサービスやプロダクトの開発はより必要になってきている。資生堂としてもその領域に対応したソリューションを充実させることが重要だと感じている」と語った。そして、ポストコロナ時代に向けても「価値観が変わった中で、スピード感をもって対応していくことが大切だ。新たなソリューションを提案していくにも自前主義ではなく、外部の技術を取り入れていくことが重要だ」(秦氏)としている。
また、古川氏は「最近ではランニングがメンタルに対しても良い影響があるなどの効果があるということが分かり始めている。今後は、ランニングで体や心にもたらす効果を検証していく。日々健康に走り続けることができるマネジメントができるプロダクトの開発にも挑戦したい」などと意欲を示していた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スキンケアをIoT化する資生堂、1週間後の不調を予期した手入れに
資生堂は2019年7月1日、東京都内で会見を開き、IoT(モノのインターネット)スキンケアサービス「Optune(オプチューン)」の提供を同日から開始すると発表した。スマートフォンアプリで収集した肌の状態や睡眠の質を基に、一人一人のその日の肌の状態に合わせたスキンケアを実現する。同サービスのスキンケア用品は使用状況に合わせて使い切る前に注文、発送することができる。利用料金は毎月定額で1万円となる。 - 資生堂が国内工場を新設する理由、高級ブランドは「人とロボットの共存」で生産
「JAPAN PACK 2019(日本包装産業展)」の特別講演に、資生堂 生産部長の大前勝己氏が登壇。「グローバル生産体制における自働化技術課題」をテーマに、資生堂のビジネスの変革と、それに対応する生産体制構築の中で顕在化した課題と解決に向けた取り組みについて紹介した。 - 化粧品製造ラインで広がる人とロボットの協力の輪、資生堂の場合
ロボット開発や活用についての展示会「ロボデックス」で「三品産業で活躍する協働ロボット」をテーマとしたセミナーが開催。その中で資生堂 生産部 生産基盤強化グループ 那須工場設立準備室 製造部準備グループ グループマネジャーの小林毅久氏が「資生堂における協働型ロボットの導入と背景」と題して講演し、ロボット導入の背景からシステム構築のポイントなどを紹介した。 - その製品が売れないのは「良くないから」だ――一橋大学米倉教授
日本の製造業の競争力低下に対する危機感が叫ばれているが、競争力を生み出すイノベーション創出にはどのように取り組むべきだろうか。イノベーション研究の第一人者である一橋大学イノベーション研究センター教授の米倉誠一郎氏に聞いた - “革新”を「天才が生む」と考える日本、「組織で生み出す」と考える世界
日本GEは、日本の産業のさらなる成長に向けた提言を行う「“Japan is Back”フォーラム」を開催。今回はテーマを「イノベーション」とし、GEグループが世界26カ国の経営者3200人に対して実施しているイノベーションに対する調査「GEグローバルイノベーション・バロメーター」の結果を基に、日本と世界のイノベーションに対する取り組みの違いなどを紹介した。 - イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【前編】
「デザインが経営を革新する」というと、少し大げさだと思うだろうか。しかし、実際に「デザイン」を基軸にして新たな視座に立つことにより、多くの事業革新につながるケースがあるという。「デザインマネジメント」を切り口に多くの企業の事業革新に携わるエムテド 代表取締役の田子學氏に話を聞いた。