そのライン構成は本当に効率的か、最適な生産レイアウトを検討するAI:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
多品種少量生産への要求が高まる中で1ラインに複数種類の製品が流れるようになり、最適な生産レイアウトを構築するのが難しくなっている。三菱電機ではこれらを支援する「生産ライン改善支援技術」を開発。同技術の開発を担当した三菱電機 情報技術総合研究所 情報表現技術部長の宮原浩二氏と同部 映像表現技術グループマネージャーの五味田啓氏に技術の概要と使いどころについて話を聞いた。
AIによる生産量予測アルゴリズム
もう1つが「AIを活用し改善案における生産量を高精度・高効率に算出」する技術である。同技術は、生産ラインの各工程で計測した作業時間から、AIを用いて作業時間のばらつきや時間帯による作業効率の変化を分析し、生産量算出用データを生成するというものだ。このデータを用いることで、改善案における生産量を90%以上の精度で算出できるようになったという。「通常の標準時間のみの場合では精度は60〜70%程度だが、それを大幅に高めることができ、改善のシミュレーションが機能するようになる」(宮原氏)。
また、これらの正確に生成したデータと、設計したレイアウトやモノの流れをシミュレーターに自動反映することで、改善検討者の勘や経験に基づき人手作業で行うシミュレーターの設定を自動化し、複数の改善案の比較検討作業を効率化できる。
「生産レイアウトも含めシミュレーションを活用することで効率的な改善を行いたいというニーズは高いが、実際に生産を行ってみると、予測生産量からずれることが多い。期待する効果があって改善活動を進めても、その効果が得られないということもあり得る。特に人の作業については、時間帯や各種条件によるばらつきが大きくなりがちで標準時間だけで計算してはずれが大きくなる。これらが正確に予測できることでシミュレーションの結果でどのような効果が得られるかを正確に把握できるようになる」と宮原氏は効果について語っている。
「骨紋」技術と組み合わせてより正確な作業を
現状では段取り替えが1日に1〜2回程度の多品種少量生産ラインで単一フロアでの活用を想定し、まずは三菱電機グループ内や関連パートナーにおける先行試験を進めているところだという。今後はさらに複数フロアへの対応など、さまざまな生産ラインへの適用を検討する。
また、現在は各作業の実測値は人手作業などにより行うケースが多いが、将来的にはカメラ1台の映像から人の骨格情報を抽出し、動作を自動検出する同社独自の作業分析技術「骨紋」技術を採用し、これらを自動化することも検討しているという。
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