1分間540個のチーズをAIで検査、検査人員20人を省人化した六甲バター神戸工場:スマート工場最前線(1/2 ページ)
Q・B・B ブランドで知られる六甲バターは2019年10月に新たな製品検査装置として、AI(人工知能)を活用した最終製品検査システムをベビーチーズ工程において導入し、成果を生み出しつつあるという。2年半かけて導入したという。同社の取り組みを紹介する。
製造現場のAI活用に大きな注目が集まる一方で、AIの活用には多くのデータが必要となるため、成果を出すのに苦労する企業は多い。そういう中で新たにAIを活用し、最終製品の検査工程を自動化した工場がある。Q・B・Bブランドのチーズ製品で知られる六甲バターの神戸工場である。
六甲バター神戸工場では、省人化を目指し、さまざまな取り組みにより人手工程の自動化に取り組んできた。その一環として、従来は人手で行ってきた最終製品の検査工程の自動化に向け清水建設との2年半にも及ぶ共同開発を行い、「AI活用の最終製品検査システム」を導入することに成功したという。成果として、充てん包装ラインの検査工程における人員を6分の1までに削減することに成功した同工場の取り組みを紹介する。
国内チーズ需要は旺盛で生産性改善が大きなテーマに
六甲バターは1948年創業の老舗のチーズメーカーである。1958年にオーストラリアのクイーンズランド州乳製品公団(Q・B・B)から原料チーズを輸入し、「Q・B・Bブランド」でのプロセスチーズ製造を開始。日本におけるチーズの一般化に貢献するとともに「Q・B・B」ブランドの浸透が進んだ。現在でもプロセスチーズの国内金額シェアでは高シェアを維持し続けているという。
国内のチーズ需要は順調な成長を見せている。農林水産省生産局によると、2018年度(2018年4月〜2019年3月)のチーズの総消費量は前年度比4.1%増となる35万2930トンとなり、過去最高を更新したという。これらの旺盛な需要に対応するために六甲バターでは2019年4月に新工場となる神戸工場を建設。従来の国内基幹工場だった稲美工場(兵庫県加古郡稲美町)から生産設備の移転などを進めているところである。
神戸工場は、敷地面積が5万1541m2、延べ床面積が4万7394m2で、主にプロセスチーズを生産する。生産能力は年間約4万トンで最新設備の導入と最適配置を実現した他、ITを活用した集中管理、品質管理体制、オートメ―ション化などを実現していることが特徴となる。総投資額は約236億円だという。
ディープラーニング技術の発展がきっかけに
新工場の稼働と合わせて、製造ラインの中の人手領域を自動化する取り組みを推進。既に包装材の除去や重量の調整などの工程の自動化に成功してきた。しかし、その中でも残されてきた最終製品の検品作業を、AI活用により自動化した。六甲バター 代表取締役社長 三宅宏和氏は「ベビーチーズの最終製品の検査工程において、AIを活用した自動検査システムにめどが立った。食品業界では検査工程の完全自動化は画期的なことだと考える。このシステムで安全安心な食品を効率よく生産しながら届けていく」と語っている。
また、六甲バター 常務取締役 生産本部長 中村行男氏は「ベビーチーズは2018年度には2億3000万本を出荷した。堅調な需要が続く中で、工場では3交代制でフル生産を続けているが追い付かない状況が続いていた。そのため、生産性の向上が大きな課題となっていた。生産数を上げるために設備導入などを進めてきたが、最終検査は人手で行っていたため、設備を増やせば増やすほど人手が必要になるというジレンマに陥っていた」と語っている。
そこで、最終検査工程の全数検査をAIで行う検討を2017年に開始した。以前は最終検査工程に画像検査装置などの導入を行ったこともあったというが「画像検査装置では、認識できるエラーのパターンが少なすぎて、全ての不良を見つけることができなかった。人の目視検査を完全に置き換えることが可能なものではなかった」と六甲バター 生産本部 神戸工場稼働推進室 小泉忠氏は語る。ただ、新たにディープラーニング(深層学習)技術が進歩したことにより、認識技術が劇的に向上。「さまざまなエラーが認識できるようになり、最終検査の自動化に使えると感じた」(小泉氏)とする。最終的に神戸工場の建設を請け負った清水建設をシステムインテグレーターとし、共同開発によりAI活用による最終製品検査システムの開発を行った。
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