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“人をお手本にするAI”は製造現場に何をもたらすのか製造現場向けAI技術(1/2 ページ)

協働ロボットなど機械が人と共に働く場面が増える中で、円滑に人と協調する能力が機械にも求められるようになっている。これらの要望に応えるため、三菱電機では「人と協調するAI」を開発した。同技術により得られる価値や狙いについて、開発陣に話を聞いた。

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 人手不足の影響から工場でも自動化領域の拡大が期待されている。その中で期待されているのが、人と同じ作業スペースで作業の支援や搬送などを行う、AGV(無人搬送車)やロボットである。しかし、人と同じ作業空間で同じように作業をするからこそ「もっとこういう配慮をしてくれたらよいのに」や「人だったらこうしてくれるのが当たり前でしょう」など、日常業務における小さな不便を感じる場面も多くなる。

 こうした課題を解決するため、三菱電機が2020年6月3日に発表したのが「人と協調するAI(人工知能)」である。三菱電機 情報技術総合研究所 知能情報処理技術部長の杉本和夫氏と、同部 機械学習技術グループ グループマネージャーの毬山利貞氏、同部 機械学習技術グループの森本卓爾氏に、技術の概要と狙いについて話を聞いた。

エッジ領域のAI技術開発に力を入れる三菱電機

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三菱電機 情報技術総合研究所 知能情報処理技術部長の杉本和夫氏

 三菱電機では、さまざまな事業領域で機器を持つ強みを生かし、IoT(モノのインターネット)関連の開発方針として、エッジ領域をスマート化し、効率化、快適性、安全・安心などの価値創出を図ることを目指している。その中で、得られたデータを処理する技術として重視するのがAIである。三菱電機のAI技術ブランドは「Maisart(マイサート)」として展開し、特にエッジ領域で使えるように演算量を抑えたコンパクトさや学習負荷の低減など、現場で使える実用性を重視した開発を進めていることが特徴だ。

 約5年間で40件以上の技術発表を行っているが「あらゆるモノを賢くすることを目指している」(杉本氏)とし、特に「ディープラーニング」「強化学習」「ビッグデータ分析」「知識処理」を4つの柱として注力しているという。

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三菱電機のAI開発における注力領域と開発方針(クリックで拡大)出典:三菱電機

人の動きを模倣させることで学習時間を短縮

 新たに三菱電機が開発した「人と協調するAI」は、機械が人と自然な形で協調できる学習モデルの負荷を低減した形で構築できる技術である。

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三菱電機 情報技術総合研究所 知能情報処理技術部 機械学習技術グループ グループマネージャーの毬山利貞氏

 今回の技術開発を担当した毬山氏は「人手不足や新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の世界を見据えても、人の作業を機械に置き換える動きはさらに加速する。その中で、人と機械が協調して働く場所は必ず増えるが、そこで協調動作が成立しない場合はシステム全体の作業効率が低下する。しかし、人に関する動作を完璧に機械が学習するには、膨大なデータが必要になり学習の負担が大きくなり過ぎる課題があった」と協調動作の難しさについて語る。

 今回の「人と協調するAI」は、これらの課題を解決するために逆強化学習を用いたことがポイントだ。逆強化学習は、熟練者の行動から報酬を推定することによって、表現しにくい学習の報酬を求めることができる技術である。これにより、学習データをそれほど多く用意しなくても最適な結果が得られる推論モデルを構築できる。

 例えば、「AGVが正しい搬送を行う」ということを目的にした場合、AGVの走行データや走行経路、これらに伴う画像やセンサー情報などの膨大なデータを、さまざまな試行パターンで集めて学習させる必要がある。さらにこれらの集めた情報に対しても、周辺環境が変化し続ける中でどういう報酬設定をすれば「正しい搬送なのか」という定義が難しく、推論モデルを作り出すのに苦労するケースが多い。

 今回の逆強化学習を使った「人と協調するAI」では、発想を逆転させ、「正しい搬送を行っている人」の運転情報やログ、センシングデータなどを使い、この「モデルとなる人の動き」にいかに近づけられるかという点を報酬の基準として設定した。「人の動き」を模範として学習を進めることで、求める成果をより少ないデータ量で、しかも短時間に達成できるようにした。

 毬山氏は「逆強化学習は研究が盛んな領域でさまざまな手法があるが、今回は人の動きを基準にし、そこに近いものに対して高い報酬を与えるという設定で学習を行い、求める結果が得られるようになった。一方でこの方法では基準となる人の作業が標準化されていることが必要で、人の動きがバラバラだと学習はできない」と語っている。

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「人と協調するAI」の開発成果(クリックで拡大)出典:三菱電機
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