よく見えるほど位置変化が分からない視覚処理の特性を発見:医療技術ニュース
東北大学は、視線移動の前後で視覚像の位置変化が見えにくくなるサッカード抑制という現象が、はっきり見える刺激に対してより大きく起こることを発見した。
東北大学は2020年6月5日、視線移動の前後で視覚像の位置変化が見えにくくなるサッカード抑制という現象が、はっきり見える刺激に対してより大きく起こることを発見したと発表した。同大学電気通信研究所 教授の塩入諭氏らの研究グループによる成果だ。
視線を動かすたびに網膜に映る画像は大きく変化するが、実際は静止画を見ているようにその変化を感じない現象を視野安定性という。位置変化に対するサッカード抑制とは、視線の移動前後で見ているものが動いた時、その動きが小さければ気づかない現象を指し、視野安定性の謎を解く鍵といわれている。
研究グループは、サッカードと呼ばれる急速眼球運動(視線移動)中に移動する刺激(白い円)の移動方向を被験者が答えるという感度計測実験を行った。
背景に対するコントラストを変化させることで見やすさを変え、刺激の移動方向の正答率を計測したところ、移動前の刺激コントラストを上げて見やすくすると正答率は上昇した。これは見やすくなったことで位置変化検出も容易になるという通常の感覚知覚処理の特性と一致する。
一方で、視線移動後の刺激コントラストを高くすると正答率は下がり、見やすくなるほど位置変化の検出が難しくなった。この結果から、眼球運動時には、脳が眼球運動後の視覚情報を用いて位置変化の検出を抑制していることが示された。
視野安定性は、視覚科学の世界で解明されていない長年の謎の1つだ。今回の研究成果は、視野安定のために脳が行う情報処理の理解を進めるものであり、人間が見る世界をより忠実に理解できるAI(人工知能)の実現にもつながるとしている。
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