ヒトの認知機能をつかさどる脳内情報表現の可視化に成功:医療技術ニュース
情報通信研究機構は、ヒトの認知機能と脳活動の関係を説明する情報表現モデルを構築し、脳内情報表現を可視化することに成功した。今後、学習や加齢による認知機能の脳内表現の変化や、個人の能力を定量的に可視化するなどの応用が期待される。
情報通信研究機構(NICT)は2020年3月10日、ヒトの認知機能と脳活動の関係を説明する情報表現モデルを構築し、脳内情報表現を可視化することに成功したと発表した。
実験では6人の被験者に3日間、見る、聞く、記憶するなどの103種類の認知課題を実行してもらった。その際の脳活動をMRIで測定し、その測定結果から2種類の情報表現モデルを構築した。
1つは、それぞれの課題の特徴量を1か0で表現した「課題種類モデル」で、脳における表現が似ている課題ほど近い色で近くに配置される認知情報表現空間として可視化した。
また、認知表現と脳領域の関係を示す全脳認知情報表現マップも作成。大脳を約2mm角に分割した各領域について、その領域に関わる認知表現を認知情報表現空間と同じ色で表した。
A:大脳の認知情報表現マップ。B〜D:2mm角領域での認知機能の構造を示す。B:左半球中側頭回、C:左半球前頭前野、D:右半球上側頭回で、領域の寄与が大きい課題が赤、少ない課題が青で示されている。(クリックで拡大) 出典:NICT
2つ目は「認知因子モデル」だ。課題種類モデルにより得られたデータと、過去の脳機能イメージング研究のデータベースを照合することで、課題を高次元の空間で表した。これによって新たな認知課題が予測可能になり、被験者が取り組んでいる新規の認知課題について、脳活動を基に高い精度でデコーディング(解読)できた。
これまでヒトを対象とした脳研究の多くは、用意された数種類の知覚や認知課題について脳活動を計測するもので、今回のように大規模な認知課題群を使った脳情報表現モデルの構築は世界初となる。
今後は、より複雑な認知活動の基盤を解明できるようになり、学習や加齢による認知機能の脳内表現の変化や、個人の能力を定量的に可視化するなどの応用が期待される。
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