動物の左右をつくる新しい原理を発見:医療技術ニュース
大阪大学は、脊索動物のワカレオタマボヤが、背腹の向きを決めるタンパク質であるBmpを利用して、左右の違いを作ることを明らかにした。ヒトにも共通する脊索動物の体作りへの理解につながることが期待できる。
大阪大学は2020年2月20日、脊索動物のワカレオタマボヤ(オタマボヤ)を用いた研究により、動物の体の左右が作られる原理を発見したと発表した。この成果は、同大学院理学研究科教授 西田宏記氏らの研究グループによるものだ。
オタマボヤを背側から見ると、ホヤや脊椎動物とは違って尾の左側に神経管があることが知られている。研究グループは、オタマボヤの初期胚における左右の違いと、オタマボヤの左右性の関わりに注目して研究を進めた。初期胚の左右を色分けして育てた結果、左右対称の形を持つ組織のほとんどが左右非対称な由来を持つことが分かった。
続いて、左か右、どちらか片方だけに働く遺伝子を探索したところ、左側の決定因子であるNodal遺伝子が欠損していること、「背腹軸」の決定に重要な骨形成タンパク質Bmpが右側で発現することが確認された。これまでの調査では、脊椎動物をはじめとする全ての脊索動物は、Nodal遺伝子が胚の左側に発現しており、オタマボヤはNodal遺伝子を持たない脊索動物として初めての例になる。
また、Bmpの発現細胞が、胚の右側のみから作られていたことから、初期胚の左右の違いとオタマボヤの左右性が関連付けられた。さらに、Bmpが働かないようにする実験を試みたところ、Bmp右側発現には、左側の神経に発現する遺伝子を右側で発現しないようにする働きがあることが分かった。
Bmpは、脊椎動物では腹側を作る働きがあり、その結果、背側に神経管が作られる。昆虫では180度逆で、腹側に神経管が作られる。しかし、オタマボヤはどちらにも当てはまらず、Bmpは右側で働いて、神経管が左側に作られる。これらのことから、研究グループは、Bmpによる背腹形成のしくみを90度回転させて使うことで、左側に神経管が作られる、左右形成の新しい仮説を示した。
オタマボヤはヒトと共通の、オタマジャクシ型の体を持つ脊索動物だ。オタマボヤの左右性は100年以上前から報告されていたが、その原理はこれまで解明されていなかった。左右形成についての新しい研究領域を開拓した今回の研究成果は、ヒトにも共通する脊索動物の体作りへの理解につながることが期待できる。
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