内臓はどのように左右非対称になるか、細胞キラリティの働きを解明:医療技術ニュース
大阪大学は、内臓器官が左右非対称な形に変化するための細胞の動きを明らかにした。この研究成果は、消化管や心臓など、管構造にねじれを持つ臓器の形成機構について理解を深める助けとなり、臓器再生への応用も期待される。
大阪大学は2018年6月11日、内臓器官が左右非対称な形に変化するための細胞の動きを明らかにしたと発表した。同大学大学院理学研究科 教授の松野健治氏らと神戸大学の共同研究グループによる成果だ。
この研究では、遺伝子の解析に適するショウジョウバエを用いた。ショウジョウバエ胚の後腸は、形成時は左右対称ながら、細胞は左右が非対称で「細胞キラリティ」と呼ばれる形をしている。その後、後腸は左ネジ回りに90度捻転し、左右非対称な形となるが、その時の細胞には細胞キラリティは見られない。
研究グループは、従来の固定標本ではなく、個体を生きたまま観察するライブイメージングとコンピュータシミュレーションを用いて、後腸の捻転と細胞キラリティの変化の関連について調べた。
その結果、後腸が捻転する時、細胞が下に位置する細胞に対して少しずつ相対的な位置を変え、捻転方向にスライドするように動く「細胞スライド」の現象を新たに発見した。さらに、遺伝子突然変異体は、細胞のキラリティや後腸の捻転方向が野生型(標準的な個体や遺伝子型)とは逆になっており、細胞スライドについても野生型とは逆向きであることが判明した。このことから、後腸の左右非対称な捻転に、細胞スライドが重要であることが確認された。
同研究成果は、管構造にねじれを持つ、消化管や心臓といった臓器の形成機構について理解を深めることに貢献する。また将来、臓器再生が可能になった時に、機能的な臓器構築への応用が期待される。
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