新車開発は時間との戦い、サプライヤーも参加する怒涛の試作イベント:いまさら聞けない自動車業界用語(2)(4/4 ページ)
今回は新車開発に関する専門用語を説明します。新車開発は自動車メーカーにおいて極めて重要なプロセスですが、専門用語がたくさんあります。
新車の開発から量産までのプロセスにおける課題や取り組みも説明しましよう。
1つ目は「試作費の削減」です。自動車業界では自動運転や電動化など、いわゆるCASE対応のため投資を行っていく必要があり、開発費が膨らんでいます。将来への投資を行うため、開発費の中に含まれる試作費を少しでも削減する必要があります。シミュレーションでの実証の拡大や、プラットフォーム共通化で先に開発した車両の評価を転用するなど、試作台数削減の活動に取り組んでいます。モデルベース開発でよく知られているマツダは、シミュレーションを活用して試作を徹底的に減らしています。
2つ目は「試作品と量産品の差異による異常発生の防止」です。試作品と量産品は製造工程が異なります。そのため、試作品では品質上問題のなかった部品が量産品になると異常が発生する、図面の規格が厳しくて実際に量産品として生産することが難しい……といった問題が多々発生します。試作品と量産品を可能な限り近づけ、開発の早い段階で生産可能なのかを検討したり問題をつぶしたりする活動が行われています。
3つ目は「生産準備の遅れ防止」です。サプライヤーでは通常、新車量産の約2年前に受注して生産準備が開始されますが、受注のタイミング、設備や金型の手配、製品の規格を定める図面の発行遅れなどにより試作イベントに間に合わないことがあります。このような状況でサプライヤーが自動車メーカーの計画する生産準備に間に合わせようとした場合、ティア1サプライヤーの調達先となるティア2、ティア3のサプライヤーは、さらに早く生産準備を完了させる必要があります。リードタイムが非常に短い中で生産準備を完了することは簡単ではありません。
前工程での生産準備が遅れ、実際に生産する工場での準備期間が確保できず、トレーニングが不十分、量産直前でかなりバタバタするといったケースもあり、事前の計画通りに生産準備を完了させることはとても重要です。
設備に関しては工作機械メーカーとやりとりしますが、仕様決定から発注、納入までにかかる時間は1年以上かかる場合もあります。2018年ごろは工作機械の需要が非常に高く、一部の機械部品の納期が15カ月超といった場合もありました。また、正規の金型ができるまでにも時間がかかります。量産品の金型は初回で合格となることは少なく、実際にラインで生産したものから補正を入れて修正されます。
これだけでなく、各国の法規制やアセスメントへの対応も課題となっています。自動車は、排ガス規制や衝突安全性評価、環境負荷物質など世界各国の法規制を順守する必要があります。法律は順次改変、追加されるので、開発段階でもその変更への対応が必要です。法律やアセスメントを十分に満たすため、法規制の施行までに再設計となる場合もあり、時間との闘いになることすらあります。
新車開発にかける期間は年々短縮されています。自動車メーカーとサプライヤーはいかに生産準備期間を短縮し、効率的に試作するか、取り組みを続けていきます。
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