ポリ乳酸の圧電特性を繊維に生かす、村田製作所と帝人フロンティアが合弁事業:材料技術(2/2 ページ)
村田製作所と帝人フロンティアは、力が加わることで電気エネルギーを生み出し抗菌性能を発揮する圧電繊維「PIECLEX(ピエクレックス)」を共同開発した。このPIECLEXの研究開発と販売を手掛ける合弁企業「株式会社ピエクレックス」を共同で設立し、アパレル企業をはじめとする顧客への提案を進める。
持続可能な未来の生活に欠かせない画期的な繊維に
会見の冒頭では、村田製作所と帝人フロンティアの両社トップがあいさつした。村田製作所 会長兼社長の村田恒夫氏は「これまで主に電子機器の分野で貢献してきた当社の技術と、帝人フロンティアの繊維技術を組み合わせることで、繊維分野における新たな価値創造に挑戦できることを大変うれしく思う」と語る。
一方、帝人フロンティア 社長執行役員の日光信二氏は「繊維業界で唯一、メーカー機能と商社機能を持つ企業として、マーケティング情報を基にした素早い商品化に取り組んでいきたい。当社が培ってきたポリマー、製糸技術と、村田製作所の圧電技術を融合させたPIECLEXが、持続可能な未来の生活に欠かせない画期的な繊維になると信じている」と述べる。
新会社のピエクレックスでは、圧電特性を扱うための電子技術や小型化が進む電子機器向けに培った電気的評価やシミュレーションの技術を持つ村田製作所と、繊維構造に関わる豊富な知見と幅広い繊維製品の開発、製造販売体制を持つ帝人フロンティア、それぞれの強みによって互いの弱みを補完できている。「互いに出し惜しみなくやっている。合弁にデメリットは一切ない」(ピエクレックス 社長の玉倉氏)という。
抗菌性能だけにとどまらない“電気の繊維”に
PIECLEXの原料となるPLAは、植物から抽出したデンプンの加水分解で生成する乳酸を重合反応して生み出される。植物由来であることによるカーボンニュートラル性に加えて、他の薬剤や有機溶剤などを用いないこと、生分解性を持つことなどから“環境に優しい”樹脂材料として知られている。
この“環境に優しい”イメージが強いPLAの圧電特性に着目して製品開発に取り組んできたことが、村田製作所と帝人フロンティアの共通点になる。村田製作所は圧電フィルムセンサー、帝人フロンティアは圧電組みひもセンサーなどとして製品化していた。
ピエクレックス 副社長の竹下氏は「電気の繊維であるPIECLEXとして、PLAを用いた植物由来による大きな循環だけでなく、人が動く力を再利用する小さな循環も作り出す、次世代型の循環型社会を実現する素材としてアピールしていきたい」と強調する。
今回の発表では、PIECLEXの持つ抗菌性能を主眼に置いた製品展開をまず推進するとのことだったが「電気によって人の細胞に働きかける効果で、美容系や医療系なども視野に入れた開発も進めたい」(玉倉氏)という。
また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大もあり、PIECLEXの抗ウイルス性能にも注目が集まる。竹下氏は「繊維における抗菌性能は、細菌の自己増殖を抑える性能を指す。一方、ウイルスは細菌と違って繊維中では自己増殖しないので、抗ウイルス性能については別途検証しなければならないが、可能性は追求していきたい」と述べている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 組みひもの飾り結びがウェアラブルセンサーに、その正体はポリ乳酸
関西大学と帝人は、「第3回 ウェアラブルEXPO」において、ポリ乳酸(PLA)の繊維を編んだ「圧電組紐」をウェアラブルセンサーとして用いるデモンストレーションを披露した。 - 「モノ売り強者」が「コト売り」に挑戦する理由、村田製作所の場合
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2018年7月12日、名古屋市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 名古屋」を開催した。名古屋での同セミナー開催は2度目となる。 - ソニーから譲り受けた村田のリチウムイオン電池、「燃えない」を武器に黒字化急ぐ
村田製作所は2019年8月28日、リチウムイオン電池の組み立て工程を担う東北村田製作所の郡山事業所を報道向けに公開した。 - 繊維アパレル業界に、植物由来多孔質炭素材料のライセンスを開始
ソニーは、繊維・アパレル業界に対し、植物由来多孔質炭素材料「Triporous」のライセンスを開始した。「Triporous FIBER」の商標名で展開される繊維アパレル製品は、優れた消臭力が長時間持続し、洗濯することで機能が回復する。 - スマートTシャツによる暑熱対策、クラボウが取り組む「コト」売りビジネス
クラボウは2019年5月28〜29日、都内で開発商品や新たな取り組みを提案する「2020クラボウグループ繊維展」を開催。「ヒューマン・フレンドリー発想 〜人にやさしく、地球にやさしく〜」をテーマとし、新規開発素材や新規サービスなどを出展した。後編は、「モノ」から「コト」へのサービスビジネス化を実現するシャツ型スマート衣料「Smartfit for work」を紹介する。 - 快適さをシミュレーションする、東洋紡の着衣解析の取り組み
東洋紡の快適性工学センターでは、衣服の快適性について科学的な側面から取り組んでいる。今回、有限要素法により人体モデルに服を着せて動かした状態の衣服圧をシミュレーションし、導電性材料を利用した心電図を測定できるスマートウェアの開発に成功した。