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「モノ売り強者」が「コト売り」に挑戦する理由、村田製作所の場合MONOist IoT Forum 名古屋2018(後編)(1/3 ページ)

MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2018年7月12日、名古屋市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 名古屋」を開催した。名古屋での同セミナー開催は2度目となる。

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 MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2018年7月12日、名古屋市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 名古屋」を開催した。名古屋での同セミナー開催は2度目となる

 前編ではブリヂストン デジタル戦略企画本部長の増永明氏の基調講演を紹介したが、後編では、特別講演である村田製作所 技術・事業開発本部 新規事業推進部 部長、ソリューションビジネス推進部 部長の谷野能孝氏による「村田製作所のIoTと新規事業育成の取り組み」と「第4次産業革命と知財」をテーマとした、IPTech特許業務法人 副所長兼COOの湯浅竜氏の講演、その他の講演について紹介する。

村田製作所が取り組む“部品売り切り型”以外への挑戦

 村田製作所は電子部品の大手メーカーである。積層セラミックコンデンサー、SAW(弾性表面波)フィルター、通信モジュール、EMI(電磁妨害)フィルター、ショックセンサーなどでは世界シェアトップ(同社推計)など、特にスマートフォン向け部品を中心に大きなシェアを獲得している。

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村田製作所 技術・事業開発本部 新規事業推進部 部長、ソリューションビジネス推進部 部長の谷野能孝氏

 ただ、IoT(モノのインターネット)化が進む中で環境にも変化が生まれる。村田製作所 谷野氏は「IoT化が進むということはさまざまなモノがつながるようになるということで、つながるということは新たな勝機が生まれる。これに対してどう取り組むかということは、村田製作所にとっても新たな挑戦だった」と考えを述べる。

 具体的には「IoTは村田製作所が従来取り組んできた環境とは異なる。従来の村田製作所のビジネスは、基本的には完成品市場で大きなシェアを握る企業があり、そこに対して部品を納入するといおうビジネスモデルだ。しかし、IoTは基本的にはさまざまなユーザーがあり、どういう形でリーチすべきなのかが難しい。今までの取り組み方と大きく変わる」と谷野氏は述べる。

 さらに谷野氏は「IoT化が進めば付加価値はハードウェアやエッジレベルから上位のITシステム側の方に移り、上位であればあるほど付加価値が大きくなる傾向が生まれる。村田製作所としてこの上位のレイヤーにどう取り組むのか、それとも取り組まないのか。この点も検討課題だった。部品売り切り型のビジネスモデル以外への挑戦である」と語る。

 これらを背景とし、村田製作所では2つの方向性でIoTに取り組む方針である。1つは既存の電子部品事業において、IoT関連製品に最適な製品群を用意し展開を強化することだ。「IoT化する中で重要度が増すセンサーや通信モジュール、関連ソフトウェア、ゲートウェイまでは製品ラインアップを持っており、この展開を強化する」(谷野氏)。

 もう1つが、センシング情報(データ)やセンシングシステムをサービスモデル(リカーリングビジネス)として提供する新規ビジネスだ。谷野氏は「顧客企業としては上位でデータ分析を行うITベンダーやソリューションベンダーを想定する。また、重視するのはスピードで、従来のモノづくりとは異なるスピード感を実現したいと考えた。ただ、現実には非常に難しい」と苦労を語る。

ハードウェアでの成功体験が障壁に

 特に苦労しているのが顧客だという。「村田製作所の今までのビジネスモデルと大きく異なるために、そもそも新規ビジネスはどういうところに、どうやって売っていけばよいのか分からないという問題があった。また、話が進んだとしても、スピードと品質についての考え方がハードウェアメーカーとITベンダーではまるで違い、話が合わないということもある」と新規ビジネスの難しさについて述べる。

 ただ、「いろいろ考えて問題の根幹は社内にある」と谷野氏は指摘する。「何をやるのかというのも難しいが、村田製作所は従来ハードウェアしかやったことがなく、そこで大きな成功体験がある。外部パートナーとそもそもうまく連携したこともない。そういう日本の製造業は多いと思うが、そういう企業が新規ビジネスをやろうとしてもなかなかうまくいかないということを痛感している。『やろう』と声をかけても社内がまず動かないからだ」(谷野氏)。

 こうした状況を打破するためにさまざまな取り組みを進めている。取り組みの1つが、仮想スタートアップ構想である。これは村田製作所の中で、新規事業を育成する仕組みで、現在試験的に進めているという。新規事業企画部門の中からCEOとCTOを出し、外部パートナーなどと組んでビジネスを形にする。新規ビジネスを形にするために、リソースシフトプログラムなども進めており、研究所からの人材シフトなども進めている。「さまざまな反発はあったが、できるようになってきた」と谷野氏は手応えについて述べる。

 オープンイノベーション活動などにも積極的に取り組んでおり、ハッカソンやピッチイベントなども展開。ハッカソンはイスラエルなどでも行い、イスラエルの有望なベンチャーとの協業拡大なども模索しているという。

 これらの取り組みを進める中で形になったものの1つが仮想センサープラットフォーム「NAONA」である※)。NAONAは、「センサーから収集したデータを、無線などの通信技術でクラウドに送って分析し、可視化する」というセンシングプラットフォームだが、雰囲気とか興味関心、親密度など、人に付随する“雰囲気”といわれるような要素まで見える化をしようとしていることが特徴である。現在事業展開を開始したところだ。

※)関連記事:“第7の感覚器官”を作り出す村田製作所、IoT時代の空間情報プロバイダーへ

 その他、路面検知システムや工場見える化ソリューション「m-FLIP」などを商品化している※)。「m-FLIPのポイントは村田製作所の工場でもともと使っていた社内システムを外部販売したということだ」と谷野氏は実績を強調する。

※)関連記事:村田製作所のスマート工場ソリューション、CAPDoサイクルで設備稼働を改善

 谷野氏は「さまざまな反発はありながらもようやく商品が形になるところまで来ることができた。ただ、今後も必ずうまくいくとは限らない。新しいことを実現するにはいろいろなことを試す必要があるからだ。企業が持続可能な発展を遂げるには、時代に柔軟に対応し、新たな要素を取り入れていく必要がある。現在の取り組みは、こうした環境に必要になるものだと信じて取り組んでいる」と語った。

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