「EUROMAP」で広がるオープン化の波、射出成形機の方向性:いまさら聞けないEUROMAP入門(3)(1/3 ページ)
射出成形機などプラスチックやゴム用加工機などでスマート化に向けて注目されている通信規格が「EUROMAP 77」である。本連載では「EUROMAP」および「EUROMAP 77」「EUROMAP 83」の動向について紹介している。第3回では「EUROMAP」が注目を集める理由となった「オープン化」の意義について考察する。
ドイツが推進するモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」が目指す「つながる」ものづくりの仕組みを実現する方法として、射出成形機をはじめとしたプラスチック、ゴム用加工機械や、その関連機器業界で注目を集めているのが「EUROMAP」である。本連載ではこのEUROMAP(第1回でEUROMAPは「OPC400xx」というジョイントコンパニオン仕様になったと紹介したがここでは便宜上EUROMAPと呼ぶ)について、その役割や活用方法などを紹介してきた。
第1回ではEUROMAPとは何かについてを解説し、そして第2回では2019年10月に開催された「K Trade Fair 2019」における最新動向について紹介した。
第3回となる今回は、これまでの記事とは視点を変え、欧州を中心として進められている「オープン化」の取り組みについて紹介したい。EUROMAPもオープン化の手法の1つだが、そもそもオープン化とはどういったことを指すのだろうか。また、オープン化が求められている背景についても改めて解説する。連載の番外編的な位置付けで気楽にご一読頂けると幸いである。
スマートファクトリを実現するために不可欠なオープン化とは
オープン化が進む背景を理解する上では、第2回で触れた欧州の代表的な射出成形機メーカーがK showで示した方向性を理解することが重要だ。ENGEL AUSTRIAやKraussMaffei Technologiesなどの主要メーカーはEUROMAP(OPC UA)を用いたつながるシステムを既に実現している。取り組みの主軸はEUROMAPそのものではなく「つながる工場(スマートファクトリー)を実現すること」である。そのため、高度なインテリジェント機能を持つスマートマシンを開発するというステップを踏んで、次の段階に進んでいる。近い将来、スマートファクトリーが一般化することを前提として研究開発が進められている点は非常に興味深い。
スマートファクトリーの実現は、数多くあるインダストリー4.0のクラスタの中でも最も活発に取り組みが行われているものの1つだ。なお、インダストリー4.0におけるスマートファクトリーとは、工場内の(あるいは工場外も含めた)あらゆる製造設備、管理システムをデジタルで相互接続し、最適化された製造プロセスによって従来の大量生産ラインと変わらない納期とコストで、少量多品種の高付加価値な製品を製造する工場のことだ(※)。
(※)関連記事:いまさら聞けない「マスカスタマイゼーション」
このスマートファクトリーの実現にはさまざまな最新のテクノロジーが必要なわけだが、中でも「工場内のあらゆる製造設備および管理システムをデジタルで相互に接続」するための仕組みが最も重要なポイントとなっている。そもそも相互の接続が確立されていなければお互いのデータの共有もままならず、最適な製造プロセスの構築など不可能だからだ。
ここで不可欠な要素になるのが「オープン化」だ。メーカーの異なる製造設備同士を接続したり、業種の異なるメーカーの生産管理システムと製造設備を接続するためには各メーカー独自の通信規格ではなくメーカー、業種の垣根を超えて共通で使える通信規格を採用する必要がある。メーカーに依存しない「オープンな技術=誰でもアクセス可能で標準化された技術」を利用することがオープン化の意味である。
「EUROMAP77」などのベースになっている「OPC UA」や生産設備の制御用ネットワークで使われているEtherCATやPROFINET、IO-linkなどは、スマートファクトリー実現のために不可欠となる、オープンな技術として欧州では認知されてきている。お互いに競合関係にある製造設備メーカーは、自社製品のシェアを維持するために独自規格によってユーザーの囲い込みがちだが、このような従来の方針を脱却してオープンな技術を積極的に活用することが、スマートファクトリー実現のための第一歩になるのである。
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