「EUROMAP」で広がるオープン化の波、射出成形機の方向性:いまさら聞けないEUROMAP入門(3)(2/3 ページ)
射出成形機などプラスチックやゴム用加工機などでスマート化に向けて注目されている通信規格が「EUROMAP 77」である。本連載では「EUROMAP」および「EUROMAP 77」「EUROMAP 83」の動向について紹介している。第3回では「EUROMAP」が注目を集める理由となった「オープン化」の意義について考察する。
なぜオープン化が必要とされているのか
「なぜオープン化が必要とされているのか」についてもう少し詳しく見ていこう。現在、主に製造設備メーカー各社で進められているオープン化の動きは大きく分けると2つに分けられる。
共通の通信規格を採用するオープン化
1つ目はメーカーの垣根を超えてデータをやりとりするための共通の通信規格を採用するオープン化である。
この共通の通信規格として代表的なものがOPC UAだといえるだろう。各社の製造設備から外部へ通信をするための規格をオープン化することで、メーカーの異なる設備同士の連携が容易になる。また、OPC UAに対応した生産管理システムを用いてさまざまなメーカーの製造設備を自由に組み合わせて製造ラインを構築することが可能になるため、ユーザーにとって非常に大きなメリットになる。
射出成形機メーカーなどの設備メーカーからすれば、自社機器による囲い込み戦略が崩れてシェアを落とす危険性もある通信規格のオープン化だが、欧州の代表的な企業の取り組みを見ると、もはやOPC UA対応はできていて当然の必須要件になりつつある。この状況が進めば、近い将来OPC UAに非対応だとユーザーの機種選定の選択肢に挙がらなくなることも十分考えられるだろう。
連載の第2回ではK showに合わせて発表された日精樹脂工業のプレスリリースが引用されているが、日本国内だけでなく欧州各社を含めた競合各社に先行する形でOPC UAの標準搭載を発表し、大きな注目を集めた。今後、日精樹脂工業に追従する形でオープン化への対応が加速していくと思われる。
機械仕様のオープン化
2つ目は、製造設備メーカーが設計、製造している機械(製造設備)に独自規格や専用品ではなく、標準的に使われている規格や仕様を活用するというオープン化である。
制御システムとして自社開発の専用ボードコントローラーを運用してきた設備メーカーが、ハードウェアやミドルウェアを汎用品(産業用PCなど)に切り替え、業界内で標準的に使われているオープン技術(例えば、EtherCATやIO-linkなど)に対応するケースが増えてきている。オープンな技術とはいえEtherCATなどの通信をつかさどるマスター機能をゼロから開発することは難易度も高い。そのため、業界内外で採用実績のある汎用のコントローラーを購入する方が合理的だという考え方が広がってきている。
実際にこれらを購入する以上に、設備メーカーが自社で専用コントローラーを開発、製造、維持することが重荷になっているという背景もある。自社開発の専用ボードは製品コストを低く抑えられるメリットはあるが、使用しているパーツ類のディスコン対策を含むメンテナンス対応を全て自社で担わねばならない。かつて開発を行った技術者の世代交代や近年の人手不足の影響により、これらのメンテナンス対応のリソース確保が困難になっていたり、新技術へのキャッチアップが難しい状況に陥ったりするケースが増えているようだ。
ここから脱するためには汎用品の購入に踏み切る必要がある。ハードウェアを汎用品に切り替えて制御開発リソースを全てソフトウェアに集中し、オープン化に対応するとともに最新の技術を活用した新しい付加価値を持った製品の開発に成功するメーカーが増えている。筆者が所属するベッコフオートメーションがかかわった事例で恐縮だが、U-MHIプラテック(紹介記事掲載時は三菱重工プラスチックテクノロジー)のオープン化の事例(※)を参照頂くとオープン化のメリットについてご理解頂けるだろう。オープン化を進めると製品の差別化が難しくなるという懸念もあるが、射出成形機としての本質的な差別化につながらない“協調領域”でオープン化を進めることで、差別化につながる“競争領域”に開発リソースを集中させることができる。
(※)参考資料:ベッコフオートメーションのU-MHIプラテックオープン化の事例「Injection molding machine manufacturer Mitsubishi takes advantage of open control architecture」(英語、PDF)
なお、前述した日精樹脂工業はOPC UA標準対応だけでなく制御ネットワークとしてEtherCATを採用し、取り出しロボット、材料供給装置をはじめとする各種周辺機器のネットワーク化を実現しており、本項で述べた2つの意味でオープン化を実現した先進的な事例といえる。
各階層のオープン化(クリックで拡大)出典:OPC Foundation「OPC Unified Architecture、Industrie 4.0およびモノのインターネット対応の相互運用性」より抜粋して筆者が注釈を加筆
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.