カシオのネイルプリンタは技術で女心に応える、端まできれいで安心安全も:イノベーションのレシピ(3/3 ページ)
カシオ計算機でネイルプリンタの開発に携わったメンバーは、シールやハガキ、写真のプリンタ、インクジェット技術、カメラ、関数電卓などさまざまな分野から集まった。企画当初からネイルプリンタをターゲットにしていたのではなく、「曲面印刷技術を新規ビジネスとして育てられないか」というテーマで2009年ごろから用途を模索していた。
爪のカーブの認識がなぜ重要なのか
画像を爪の湾曲に合わせて補正するだけでは、爪に綺麗に印刷されない。インクジェットならではの構造的な要因が影響している。
インクジェットヘッドは直線的に動き、等間隔でインクを吐出する。紙など平面であれば問題ないが、爪の湾曲によってヘッドから吐出されたインクの“着弾”がずれてしまうのだ。爪の中央付近であれば狙った場所に落ちていたインクが、爪の端になると着弾位置がズレたり、着弾する時のインクの形が変形したりする。こうした要因によって、平面と同じインクジェット印刷では爪の端が滲んだような仕上がりになるという課題があった。
これに対し、カシオではインクジェットヘッドが動く方向に合わせて印刷しない範囲を決める仕組みを採用した。右から左にインクを噴射するときには左側の端に向けて、反対に左から右にインクを噴射するときには右側の端に向かうにつれて、インク噴射量を減らす。左端だけが薄い印刷と、右側だけが薄い印刷を重ね合わせるイメージだ。これにより狙って着弾したインクだけを使って、滲みやすい爪の端を鮮明に印刷できるようにした。
インクのドットの大きさにもこだわった。印刷を高精細にするには、小さいドットでインクを噴射する必要があるが、インクジェットヘッドから遠くなる爪の端はインクが散るため、かすれやすくなるという課題があった。大きいドットであれば、精細さは劣るが遠くまで狙った位置にインクが届く。こうした性質を利用し、爪の中央は大小両方のドットを使って平面印刷と同様にプリントし、端の方は大きいドットに置き換える制御とすることで端まで綺麗な印刷を実現する。こうしたインクの噴射の制御は、カメラで検出した爪のカーブが基になっている。
プリンタでもインクカートリッジでもなく、コンテンツを売り物に
カシオのネイルプリンタは、コーセーが銀座にオープンした体験型店舗「メゾンコーセー」(東京都中央区)に導入されている。コーセーの製品を自由に試すことができる店舗で、ネイルプリンタ以外にも、肌の状態からスキンケアやメークを提案するスマートミラーなどが設置されている。先述の通りカシオは男性向け製品が強かったため、女性へのアプローチに強いコーセーと協力する。両社で協力することで、新しいネイルのビジネスの形を探る。
業務用としての展開だけでなく、家庭用としての販売も視野に入れている。家庭用インクジェットプリンタのように、インクカートリッジで収益を上げるビジネスモデルにはしない考えだ。また、個人で数万円のプリンタ本体を買ってもらうのはハードルが高いと見込み、今までのモノ売りとは異なる売り方を考えていく方針だ。
休日やイベント、TPOに合わせてネイルを気軽に変えたいというニーズに応えてデザインというコンテンツをどう提供できるかがポイントになるとみており、サブスクリプション方式や月額制での売り方を検討している。また、デザインが充実し、使い回しがきくのであれば、個人でネイルプリンタを所有してもいいというニーズも増えると考えられる。カシオの名前を出さずに化粧品メーカーを通じてネイルプリンタを販売する可能性もありそうだ。
なお、カシオのネイルプリンタは指を固定する構造のため、足のマニキュア(ペディキュア)に対応するのが難しいという。ペディキュアにもぜひ対応してもらいたいものだ。
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