カシオのネイルプリンタは技術で女心に応える、端まできれいで安心安全も:イノベーションのレシピ(2/3 ページ)
カシオ計算機でネイルプリンタの開発に携わったメンバーは、シールやハガキ、写真のプリンタ、インクジェット技術、カメラ、関数電卓などさまざまな分野から集まった。企画当初からネイルプリンタをターゲットにしていたのではなく、「曲面印刷技術を新規ビジネスとして育てられないか」というテーマで2009年ごろから用途を模索していた。
化粧品として安心して使えることも重視
プリンタとしての技術開発に加えて、“化粧品”を初めて扱うことも製品化のハードルとなった。カシオのネイルプリンタのインクは、化粧品製造販売業としての許可を受けたメーカーが生産しており、医薬品医療機器等法での化粧品に該当する。マニキュアを含め、化粧品は化粧品製造販売業や化粧品製造業といった許可が必要になる。化粧品基準の色素や溶剤を使用するだけでは法的に化粧品としては認められない。
さまざまなメーカーがネイルプリンタを販売しているが、中には「水性塗料インクで安心」とうたったものもある。「化粧品だから」ではなく「水性塗料だから」安心だというのだ。
カシオは、ネイルプリンタを安心して使ってもらうため、開発スケジュールを半年遅らせてでも化粧品として製品化することを重視した。当初は化粧品としての認可を受けず、化粧品グレードの素材を使用する計画だったが、関係省庁に相談して「化粧品に該当する」という指摘を受け、化粧品製造販売業の資格を持つ化粧品メーカーの協力の下で色素などを全て見直して選定した。その結果、他社のネイルプリンタよりも製品化が遅れた格好だが、「カシオの製品として出す以上はちゃんとしたものを」という思いで時間をかけた。
爪の形とカーブをカメラで認識
カシオのネイルプリンタは指1本当たり15秒で印刷が完了するが、下準備として白いベースを塗る必要がある。このベースが塗られた白い部分をネイルプリンタ内のカメラで撮影して画像処理することで、爪の輪郭やカーブを検出しているのだ。白色と一口に言っても、爪の形状によって白色が明るい場所と暗い場所がある。こうした白色の分布について、女性の爪1000個の学習データを基に、隣り合った画素同士の比較から爪のカーブを加味した状態で爪の輪郭を検出する。
学習データを集めるときに爪の湾曲についても測定した。測定結果を基に5種類の基準カーブを設定し、爪の湾曲パターンの80%をカバーできるようにしている。残りの20%の湾曲パターンについても、本体側で調整して対応できる。また、印刷にあたっては、爪の大きさも正確に測定する必要がある。そのため、ネイルプリンタ内で決まった位置に指を固定する構造とすることで、爪とカメラの距離を一定にできるようにした。
個人差のある爪のカーブを検出することは、品位の高い曲面印刷に必須の工程だ。爪の湾曲に合わせて印刷する画像の形状や濃度を補正することで、角度を変えてもきれいに見せるためだ。印刷する絵の形状や大きさを数百ミクロンピッチで修正する。その結果、印刷したときに爪のカーブに合わせて図形や濃淡が正しく見えるようにする。こうした補正なしに平面と同じように印刷すると、爪の端で絵が間延びするなどして仕上がりが悪くなるのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.