変種変量生産で効率50%向上、“世界的先進工場”は何を行っているのか:スマートファクトリー最前線(6/6 ページ)
2020年1月にWEFによる「第4次産業革命を主導する世界的先進工場(ライトハウス)」に選ばれた日立製作所の大みか事業所。世界の中でも先進的な取り組みを進めるスマートファクトリーとして評価された工場となったわけだが、具体的にはどういう取り組みを行っているのだろうか。同工場の取り組みを紹介する。
自律分散システムやシミュレーターを活用したシステム試験
大みか事業所ではこれらのハードウェアに関するモノづくりの他、ソフトウェアの開発やシステム検証なども行っている。具体的には、自律分散フレームワークなどのソフトウェアの設計・開発手法や、システム全体の信頼性や安全性を確保するシステム試験などを用意する。
自律分散型システムは、同じ構造や情報を持つ最小単位のサブシステムを組み合わせて、器官としての機能を生み出すようなシステムである。一般的なシステムが全体像を定義しなければ機能しないのに対し、自律分散型システムはサブシステムの集合体として機能するため、稼働していないサブシステムや故障箇所などがあっても機能する点が特徴である(※)。
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オンラインでの拡張が可能である「拡張容易性」、システムを稼働させながら保守を行える「オンライン保守性」、不具合時もシステム全体を止めなくてもよい「高信頼性」、緊急度の高いデータを優先的処理できる「リアルタイム性」などが特徴となる。大みか事業所で作られる社会インフラの制御システムは安定性や信頼性、可用性が何よりも重視されており、だからこそ開発された仕組みだといえる。自律分散型システムは既に、鉄道や鉄鋼などの業界に4000システムを導入しているという。
シミュレーターを活用したシステム試験「SST(System Simulation Test)」も、信頼性や安全性、安定性が問われる社会インフラシステムだからこそ行っていることだ。SSTは、実環境と同じ環境をサイバー空間上に用意し、シミュレーター(オフライン型デジタルツイン)により、実稼働中の現実環境では実施できない試験などを実施する仕組みだ。主に鉄道システムなどで、新たな機能を実装したり、改良を行ったりした際などに活用されている。
大みか事業所が「ライトハウス」に認定されたのは、優れたモノづくり現場での取り組みに加えて「これらの信頼性に応えるさまざまな仕組み作りが評価を受けた結果だ。制御システムに関連する総合的な力が評価された」と花見氏は述べている。
今後のスマート工場の在り方
大みか事業所のスマート工場への取り組みについて、花見氏は「これから人口が減少し、労働力が減るということは自明である。こうした時代に対応するためには、作業効率をさらに高めていかなければならない。そのためには、属人化を排除し汎用化していくことは必須となる」と進化の方向性について語る。
こうした流れの中、大みか事業所における工程内の高度化を進めるとともに、今後は「モノづくりのサプライチェーン全体を捉え、トレーサビリティーなど、工場の外も含めたつながりを強化していく」と花見氏は語る。そのためには「サプライチェーンを構成するさまざまなシステムをつないでいく必要がある。従来のサプライチェーンでは上流から下流への情報の流れが多かったが、逆に下流から上流にフィードバックするような流れも作りたい。これらを属人的にやるのではなく仕組みとして確立する。トレーサビリティーを確保するための生産設備導入なども進めていく」(花見氏)としている。
さらに、「ライトハウス」を取得した意味について「日本の製造業はさまざまなモノを最適な形で作っている。われわれの取り組みを開放することで、さまざまな日本の製造業のモノづくりが活性化していけばよいと考えている。『ライトハウス』にもそういう役割が求められている。効率的な生産システムの手本になれるようにわれわれ自身もブラッシュアップしていくとともに、日本の製造業底上げのヒントになれるようにしたい」と花見氏は抱負を語っている。
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