自動運転で広がる非競争領域、足並みを速やかにそろえられるか:MONOist 2020年展望(4/4 ページ)
自動車業界の大手企業が自前主義を捨てることを宣言するのは、もう珍しくなくなった。ただ、協調すること自体は目的ではなく手段にすぎない。目的は、安全で信頼性の高い自動運転車を速やかに製品化し、普及させることだ。協調路線で動き始めた自動車業界を俯瞰する。
自動運転の安全は誰がどうやって決めるのか
自動運転車の実用化に向けた最後のハードルは、安全性の評価だといえる。実証実験中の事故やトラブル、運転支援システムが絡んだ死亡事故が報道されてきた中、信頼性を示すには総計100億kmもの走行が必要だとする意見もある。もちろん、単独でどのような走行試験が必要かを模索し、やみくもに距離を重ねても意味がない。
ドイツでは自動車メーカー各社、大手サプライヤー、第三者認証期間などが参加する産学連携プロジェクト「PEGASUS」で自動運転車の安全性評価やテスト環境の在り方を議論。どのようなパラメータのシミュレーション環境で、どんなシナリオで評価を行うべきかフォーマットを定め、「OpenScenario」「OpenDrive」「Open Sensor Interface」という標準を発表した。
米国では、SAEインターナショナルがフォードやGM(General Motors)、トヨタ自動車とともに、レベル4以上の安全な自動運転車の開発に向けた指針となる原則や標準を検討するAutomated Vehicle Safety Consortium(AVSC)を立ち上げた。ホンダ、ダイムラー、フォルクスワーゲンのほか、UberやLyftも参加する。AVSCでは、自動運転技術の開発者やメーカー、インテグレーター向けに、データ共有や、他の道路ユーザーとの協調、安全なテストガイドラインに関するロードマップを示すとしている。
インテルが自動運転の安全に関するIEEE規格策定を主導
IEEEも自動運転車の安全に関する標準規格の策定に動き出した。ワーキンググループの責任者はインテルが務め、2020年内にも新規格「IEEE 2846」の第1版を発行するとしている。インテルは、自動運転車のコンピュータの判断能力は可視化が難しく、「ブラックボックスのようなもの」で大半が構成されているため、自動運転車の安全性を相対的に評価することが難しいと指摘。自動運転車が安全に走行するためのルールベースの数理モデルを確立することで、組織や団体を問わず利用でき、検証可能な基準を用意する。また、国や地域の交通ルールに合わせて政府がカスタマイズすることにも対応するという。IEEE 2846への準拠を検証するため、規格がテストツールにも組み込まれる。
規格策定に向けてインテルが提供するのは「Responsibility-Sensitive Safety(RSS:責任感知型安全論)」のフレームワークだ。論文などでオープンにされており、自治体が自動運転車に関する規制を検討する際にも参照されているが、RSSはインテル傘下のモービルアイの技術的な強みの土台でもある。RSSは安全運転の基準を数式でルール化し、その走り方が安全かどうかを数式で客観的に評価できるようにするもので、パラメータの変更によって地域ごとの運転特性の違いもカバーする。法整備の考え方をシンプルにすることにも貢献するという。
ドイツの開発ツールベンダーは「日本もドイツのPEGASUSプロジェクトのように協調しようと方針はそろったが、具体的な活動は出てきていない。海外との調和を考えると、日本の標準は決して欧州勢を無視できないだろう」と指摘する。非競争領域の中で、グループ同士、国同士でどのように調和をとるかで争いになっては意味がない。自動運転車の早期の実用化と普及に向けて、自前主義を捨てるだけでなく、柔軟な協調に期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫MONOist 新年展望
- どうして今、自動車にモデルベース開発が必要なんだろう
モデルベース開発という言葉は、自動車業界にとって決して目新しいものではありません。今さら何を解説しようというのか、と思われる方も多いことでしょう。しかしここ数年で、自動車業界全体でモデルベース開発の「活用、流通」という言葉をよく耳にするようになりました。自動車開発のキーワードの1つになっていると言っても過言ではありません。 - 自動運転システムの安全性を自動分析する新手法、肝は「大まかに捉える」
国立情報学研究所(NII)は、アーキテクチャ科学研究系 准教授の石川冬樹氏の研究チームが、自動運転車をはじめとする複雑な自動車システム設計の安全性を自動分析する手法を開発したと発表した。この研究成果は、複雑ソフトウェアシステムに対する工学についてのフラグシップ国際会議「ICECCS 2019」で最優秀論文賞を受賞している。 - 車載ソフトウェア開発を容易に、TRI-AD独自の開発プラットフォーム「Arene」
トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント(TRI-AD)は2019年12月17日、東京都内の新オフィスの全エリアが本格稼働したと発表した。これに合わせて、報道向けに社内の一部を公開。同社独自の開発プラットフォーム「Arene(アリーン)」を使って、自動運転車のコックピットの開発とテストが簡単に連携する様子などを披露した。 - 1社では難しい「レベル4」、オープンソースの自動運転ソフトが提供するものは
「人とくるまのテクノロジー展2018」(2018年5月23〜25日、パシフィコ横浜)の主催者企画の中から、ティアフォーの取締役で、名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授でもある二宮芳樹氏の講演を紹介する。 - 「自動運転のコストは必ず下がる」、AVCCが非競争領域の成果を2025年モデルに
2019年10月に発足を発表したAVCC。新たにルネサス エレクトロニクスや、Autoliv(オートリブ)から分社化したエレクトロニクス関連のVeoneer(ヴィオニア)も加わった。自動車メーカーや大手サプライヤー、半導体メーカーが、日米欧から集まった格好だ。どのように自動運転のコストを下げるのか。 - オープンソースの自動運転ソフトを業界標準へ、トヨタも参加する「AWF」が発足
ティアフォーは、米国のApex.AI、英国のLinaroと共同で、自動運転OSの業界標準を目指す国際業界団体であるThe Autoware Foundation(AWF)を設立する。オープンソースソフトウェアとして無償で利用できるティアフォーの自動運転車向けソフトウェア「Autoware」の普及により、自動運転車の早期実用化を促すのが狙い。 - ソフト開発は「ツールとインフラが9割」、トヨタの先行開発会社が重視すること
トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の共同出資会社であるToyota Research Institute Advanced Development(TRI-AD)は2019年1月30日、東京都内で事業説明会を開いた。 - トヨタ子会社TRI-ADがNVIDIAを全面採用、シミュレーションから車載コンピュータまで
NVIDIAは2019年3月18日(現地時間)、ユーザーイベント「GTC 2019」(2019年3月19〜21日)において、トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の共同出資会社であるToyota Research Institute Advanced Development(TRI-AD)との協業範囲を拡大すると発表した。自動運転AIの学習、クラウドベースの走行シミュレーションによる検証から開発用車載コンピュータまで、エンドツーエンドでNVIDIAの技術、製品を採用する。