自動運転で広がる非競争領域、足並みを速やかにそろえられるか:MONOist 2020年展望(3/4 ページ)
自動車業界の大手企業が自前主義を捨てることを宣言するのは、もう珍しくなくなった。ただ、協調すること自体は目的ではなく手段にすぎない。目的は、安全で信頼性の高い自動運転車を速やかに製品化し、普及させることだ。協調路線で動き始めた自動車業界を俯瞰する。
自動運転OSやシミュレーションもオープンソース
「自動運転OSの業界標準」を目指すオープンソースソフトウェア(OSS)も出てきた。2018年末に立ち上がったThe Autoware Foundation(AWF)は、OSSとして無償利用できるティアフォーの自動運転車向けソフトウェア「Autoware」の普及により、国や企業を問わず自動運転車の早期実用化を促す。Autowareは自動運転の実証実験などで国内外で広く採用実績がある。
AWFを設立したのはティアフォー、米国のApex.AI、英国のLinaro。この他にも、設立当初からArm、AutoCore、AutonomouStuff、イーソル、ファーウェイ(Huawei)/ハイシリコン(HiSilicon)、インテルラボ(Intel Labs)、Kalray、LG電子(LG Electronics)、名古屋大学、OSRF、Parkopedia、RoboSense、SEMIジャパン、SiFive/RISC-V Foundation、StreetDrone、TRI-AD、ベロダイン・ライダー(Velodyne LiDAR)、ザイリンクス(Xilinx)が参加している。TRI-ADは、「成果となるソフトウェアコードは、TRI-AD社内でも利用することになるだろう」とコメントを発表。トヨタ自動車は車載情報機器の開発でもオープンソースソフトウェアの活用を推進しており、自動運転開発も同様の姿勢を取るようだ。
ECUやインフラにも広がるか
さらにティアフォーは、自動運転OSとしてのAutowareを普及させるだけでなく、自動運転ECUの業界標準も狙う。台湾のクアンタ・コンピュータ(Quanta Computer)とともに、Autowareを搭載するECUの商用化に取り組み、オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を通じて得た知見とベストプラクティスに基づき、自動運転システムに最適なECUの仕様を提唱していくという。
AWFにはインフラ側のメンバーも登場した。2020年1月に米国運輸省の連邦高速道路局も参加を表明しており、政府系では初の参加だという。連邦高速道路局は自動運転システムと協調するための交通インフラプラットフォーム「CARMA」をOSSで開発した。AWFに連邦高速道路局が参加することで、インフラ側のCARMAと自動運転車側のAutoware、オープンソースプロジェクト同士の連携が進む。
また、ティアフォーはAutowareを使ったクラウドベースのシミュレーション環境も整える。LG電子がUnityで開発した自動運転開発向けシミュレーター「LGSVLシミュレーター」と、自動運転車のOSであるAutowareを連携させることで、Autowareのシミュレーションベースの走行テストを行うターンキークラウドサービスを提供する。
クラウド上にエコシステム、中心にいるのはマイクロソフト
LG電子の背後には、マイクロソフトがいる。マイクロソフトは、走行データの収集と、学習前のデータ処理、AIの学習とシミュレーションまで、クラウドベースで自動運転の開発ツールチェーンとして提供しようとしている。「既に、大手ツールベンダーのシミュレーションがAzureに乗った。データの処理に必要なラベリングツールの企業とも協力関係ができている。自動運転の機能開発にはクラウドのスケールが欠かせない」(Microsoft Automotive IndustryでGeneral Managerを務めるサンジェイ・ラヴィ氏)としており、LG電子はこのエコシステムのメンバーに加わっている。
同じくマイクロソフトの自動運転開発のエコシステムに名を連ねるNVIDIAも、自動運転の開発環境に関する“仲間づくり”を進める。NVIDIAは、3D CGの処理技術を生かしたシミュレーションと車載コンピュータが連携するHIL(Hardware In the Loop、ECUテスト)システムを開発。車載コンピュータから、シミュレーションソフトウェアを実行できるサーバまで一貫して手掛けられる点を強みとする。また、他社のシミュレーションソフトの環境、車両、センサーのモデルや交通シナリオも統合可能なオープンプラットフォームとしている。
自動運転開発がリアルな走行テストではカバーしきれない複雑さとなっている中、シミュレーションの重要性は自動車業界全体が認識しているが、走行データをシミュレーションでスムーズに活用する上での大きな壁がいくつかある。その壁をなくすための仲間づくりを強化したツールベンダーが生き残っていく環境となりそうだ。
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