JVCケンウッドが痛感した3Dプリンタの量産活用における難しさと解決への筋道:HP デジタルマニュファクチャリング サミット(3/3 ページ)
日本HP主催「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 〜3Dプリンターによる、ものづくりのデジタル革新〜」において、JVCケンウッドは「JVCケンウッドが推進するデジタルマニュファクチャリングの取り組み」をテーマに講演を行った。
3Dプリンタの量産活用の取り組みで痛感したこと
こうした取り組みを通じ、痛感したこととして、久家氏は「消極的な設計者の存在」「トップダウンで進めることの重要性」「サービスパーツの難しさ」「実験の大切さ」を挙げる。
HP Jet Fusionシリーズの導入、活用に関して、社内の理解を得ようと設計者とディスカッションをすると、「新しいモノは不安だからやりたくない」と言ってくる人たちが必ずいるという。その理由についてさらに突っ込んで聞いてみると、「寸法精度が不安」「コストが高い」「外観部品に使えない」「難燃グレードがNG」「わざわざ変える必要性を感じない」といった声が上がってきたそうだ。
このようなネガティブな声に対し、久家氏はその不安に対する解決策の提案を1つ1つ行い、理解を得る活動に努めたという。例えば、寸法精度が不安といった声に対しては、「4つのパーツで構成されていたものを、3Dプリンタなら2つにできる。寸法精度や公差は組み立てるから必要になってくる。3Dプリンタで一体成形してしまえば、組み立て箇所が減り、寸法精度の管理工数や組み立て工数が削減できる」といった具合に説得。部品点数が減れば金型も減り、コストメリットが出しやすくなる。さらに、「もともと金型で作っていたものに対して、3Dプリンタを適用するケースでは、最悪、金型に戻すといったリスク回避もできる。こういう回避策を用意してあげることも設計者の説得には重要だ」と久家氏は説明する。
また、トップダウンの重要性については、「JVCケンウッドの場合」(久家氏)と前置きした上で、「過去、設計者向けに3Dプリンタの量産活用に関する社内セミナーを実施したが話が全く進まなかった。それではと経営層、企画、デザイナーを対象に講演会を実施したところ、翌週には活用の話が舞い込んできた」と久家氏。先に挙げた企業課題に直面している経営層に対し、3Dプリンタの活用メリットを説明することで、「これは課題解決に役立つツールだ」とすぐに認識してくれるという。「技術課題の解決というアプローチであれば、ボトムアップが本来正しいアクションなのかもしれない」(久家氏)としながらも、トップダウンは非常に良く効いたという。
3Dプリンタの量産活用の目的の1つに、サービスパーツの製造があったが、ここにも壁があった。3Dプリンタでサービスパーツを製造することで、金型管理や部品保管にかかるコストを大幅に削減できる。しかし、3Dプリンタは材料費が高いこともあり、部品代として消費者に負担を強いる場合、従来の射出成形を前提とした値付けと比較してどうしても(3Dプリンタ製のサービスパーツは)高額になってしまう。また、部品の在庫に関しても基本的には十分な在庫を確保しており、万一、不足してしまっても後継機を紹介することで回避できるだろうという判断から、「現行部品の置き換えで3Dプリンタを活用するには(JVCケンウッドの場合)メリットが少ない」という結論に至ってしまったという。
「こうした傾向は特に民生品に強い。では、どうすればサービスパーツの製造に3Dプリンタを活用できるか。それは最初から3Dプリンタで作ることを前提とした設計でモノづくりを進めるしかない。そうなれば当然、サービスパーツも3Dプリンタで作ることになるからだ。サービスパーツにおける金型管理や部品保管のコスト削減効果を得るための近道は、はじめから3Dプリンタを活用することだ」(久家氏)
また、いつどんな相談が来るか分からないし、現場の不安解消につながる糸口を見つける意味でも、「とにかく気になることは実験すべきだ」と久家氏は語る。講演では塗装した造形物にレーザー刻印したサンプルや樹脂型への適用例を紹介。「何がどう転んで使えるか分からない。実験を通じて、いろいろなノウハウをため込んでおくことを強くオススメしたい」(久家氏)。
今後クリアすべき3つの課題
最後に、これからさらにクリアすべき課題として、信頼性、保証、設計の3つを掲げる。
信頼性に関しては、3Dプリンタ造形部品を想定した信頼性試験の重要性に言及し、「できれば個々の企業が取り組むのではなく、業界標準として策定していく必要がある」と久家氏は述べる。また、保証についても「そもそも工法が変わることになるので、従来と同じ出荷検査や保証でよいのだろうか?」(久家氏)と来場者に投げ掛けた。そして、設計に関しては「せっかく3Dプリンタでモノを作るのであれば、3Dプリンタの特性を生かしたものを作らなければ価値が半減してしまう。DfAM(Design for Additive Manufacturing)について学ぶ必要がある」(久家氏)と述べ、必要に応じて、第三者の協力を仰ぎながら業界全体で課題解決に取り組むべきだと訴えた。
久家氏は「3Dプリンタの話題は欧米から発信されるものが多い。ここで挙げた課題を皆で解決し、日本から世界が驚くような(3Dプリンタ活用に関する)ニュースを発信していけたらと思う。そのためにもわれわれ自身、業界全体を盛り上げる努力をしていきたい」と述べ、講演を締めくくった。
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