JVCケンウッドが痛感した3Dプリンタの量産活用における難しさと解決への筋道:HP デジタルマニュファクチャリング サミット(2/3 ページ)
日本HP主催「HP デジタルマニュファクチャリング サミット 〜3Dプリンターによる、ものづくりのデジタル革新〜」において、JVCケンウッドは「JVCケンウッドが推進するデジタルマニュファクチャリングの取り組み」をテーマに講演を行った。
JVCケンウッドが3Dプリンタの量産活用を推進する背景
ここで久家氏は、JVCケンウッドが3Dプリンタの量産活用を推進しなければならない背景についても触れた。
その大きな理由として挙げられるのは、民生機器の出荷台数の減少だという。「何とか売り上げアップを図ろうと、新規開発商品を投入しても、新規ものでいきなり大きな売り上げにつながることはまずない。また、限定生産商品を発売しても少量生産が前提になるため、金型製作/管理の負担が重くのしかかってしまう。結果、B2C商品は選択と集中を余儀なくされ、B2B商品で売り上げを積んでいかなければならない状況に陥ってしまう」と久家氏。しかし、B2B商品はもともと少量生産であり、さらに売り上げを伸ばしていくとなると、商品ラインアップを細分化せざるを得なくなり、どんどんカスタマイズに近い形になっていき、結果的に金型の負担もさらに大きくなってしまう。
このような実情を踏まえ、JVCケンウッド社内の課題を整理してみると、以下の3つに集約されるという。
「少量生産における金型の負担、下請法改正による金型管理および保管の透明化、サービスパーツの保管コストが大きな課題として挙げられる。これらをクリアするには、とにかく金型に変わる新たな製造方式を考えなければならず、その解決手段としてベストなものは3Dプリンタしかないと結論付けた」(久家氏)
量産活用に最適な3Dプリンタは?
本格的な試作以外の3Dプリンタ活用、量産活用の検討を始めるに当たり、まず行ったのが3Dプリンタの選定である。
久家氏は独自の評価軸を基に、FDM、SLS(粉末焼結積層)、SLA(光造形)、インクジェットの特徴を比較。「FDMやSLSの場合、強度はいいが見栄えが良くない。一方、SLAやインクジェットの場合、見栄えは良いが強度が低い。当初、量産活用の候補としてSLSに絞って調査を進めていったが、そんな中、突如『HP Multi Jet Fusion(MJF)』が登場。これならSLSで妥協していた部分をクリアし、自分たちのやりたいことに近づけると思った」と久家氏は説明する。
特にメリットとして感じたのは、サポート材とモデル材の境目がないこと、造形方向によって強度が変わらないこと、レーザーを使用していないこと、中央と端の造形に差異が出ないこと、難燃グレードのUL94HB準拠の材料が使用できることを挙げる。「中でも、レーザーを使用しないため安定した造形ができる点、UL94HB準拠材料が使用できる点は大きかった」(久家氏)。
こうして「HP Jet Fusionシリーズ」をJVCケンウッドの量産活用の主軸に据えることに決めたが、社内での活用の下地づくりが不十分で、導入活用が思うように進まなかったという。そこで、日本HPとSOLIZE Productsの協力を仰ぎ、量産活用パートナーシップを3社で締結。3Dプリンタの社内活用(量産活用)が進む日本HPのノウハウ、SOLIZE ProductsはHP Jet Fusionの造形に関する知見を活用しながら、JVCケンウッド社内で量産事例を生み出し、それを2社にフィードバックするという枠組みを構築した。
久家氏は「この枠組みにより、何とか社内で3Dプリンタの量産活用の動きが作れるようになった。3Dプリンタでモノを量産するということは、非常に高いハードルだ。これを1社だけで実現するのは難しい。そうであれば、他社の力を借りて、お互いの得意分野を持ち寄ることで、その高い目標をクリアすればよい」とし、量産品に実際に組み込まれることが決まった医療用部品と、まだ現時点で量産活用には至っていないが信頼性試験を見事通過したラジカセのサービスパーツの成功事例を紹介した。
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