プラスチックやゴム用加工機で「つながる」を実現する「EUROMAP」とは何か:いまさら聞けないEUROMAP入門(1)(4/4 ページ)
射出成形機などプラスチックやゴム用加工機などでスマート化に向けて注目されている通信規格が「EUROMAP 77」である。本連載では「EUROMAP」および「EUROMAP 77」「EUROMAP 83」とはどういう規格なのか、技術的にはどういう背景があるのか、どのような活用シーンがあるのかについて、紹介する。第1回となる今回は「EUROMAPとは何か」をテーマに概要を取り上げる。
EUROMAPが可能にすること
これまで述べてきたように、OPC UAをベースとしたEUROMAP規格はインダストリ−4.0の目指すモノづくりの未来を実現するために有効かつ現実的な取り組みだ。利害関係を超えて欧州を代表する多くのメーカーが規格の開発、検証に携わっていることや、中立的な立場であるOPC Foundation、VDMAが正式にサポートを行っていることからEUROMAPが今後のプラスチック関連業界のスタンダードになっていく可能性は極めて高いといえる。
EUROMAPがスタンダードになる過程で、射出成形機や周辺機器メーカーが現在採用している独自のデータフォーマットの使用は限定的になっていくと思われる。EUROMAPで定義できない特殊な条件下における場合を除き、少なくとも上位システムと送受信を行うためのデータフォーマットはEUROMAPに統一されていく可能性が高い。
一方で、既設の射出成形機など古い機器に対してはEUROMAPゲートウェイを用いてインダストリ−4.0に対応するという新しいニーズが生まれ、業界が活性化することも考えられる。
とはいえ、今後EUROMAPが業界内で広く受け入れられて対応するメーカーが多くなった場合、その恩恵を最も受けるのは言うまでもなくユーザーである。これまでは各メーカーが定めた独自の規格の中でしか相互に接続できないことがほとんどだったが、EUROMAPによってユーザーが選択できる幅が非常に大きく広がる。メーカー独自の規格に縛られずに生産ラインをニーズに合わせて柔軟に構築できるようになる。また、1つの生産管理システムであらゆる機器に対応できるなど、EUROMAPはプラスチック業界のオープン化を進める大きなきっかけになるのは間違いないだろう。
OPC UAと融合するEUROMAP
本稿ではEUROMAP 77を中心としてOPC UAベースの新しいEUROMAPについて紹介してきたが、最後につい先日OPC FoundationからアナウンスされたEUROMAPについての興味深い内容について紹介しておく。
先述した通りEUROMAPはOPC FoundationとMoUを締結してコンパニオン仕様の策定を行ってきたが、プラスチック、ゴム機械および周辺機器に関する仕様として新たに「OPC 400xx」というジョイントコンパニオン仕様を策定していくと発表した。
EUROMAP 83はOPC 40083(OPC UA interfaces for plastics and rubber machinery - General Type definitions)、EUROMAP 77はOPC 40077(OPC UA interfaces for plastics and rubber machinery - Data exchange between injection moulding machines and MES)として定義される。OPC UAのコンパニオン仕様であることは変わらないものの、EUROMAPの名前は消えて純粋なOPCの仕様として扱われることになる。
正式なアナウンスは「K 2019」(2019年10月16〜23日、ドイツ・デュッセルドルフ)に合わせて行われる予定とのことなので、今後のOPCおよびEUROMAPの動向に注目したい。
第1回は「EUROMAP」および「EUROMAP 77」「EUROMAP 83」の概要について紹介した。第2回では「K 2019」での「EUROMAOP」の出展状況や技術的な進展などについて紹介する。
著者紹介:
篠田和伸(しのだ かずのぶ)
ベッコフオートメーション ビジネスディベロップメントマネージャー
日本大学大学院理工学研究科卒業後、日系大手電機メーカーにて省庁に納入するシステムのシステム設計、プロジェクトマネジメントを担当。その後米国系センサーメーカー日本法人の技術部長を経て2017年にPC制御に特化したドイツの制御装置メーカーであるベッコフオートメーション株式会社に入社。
EtherCATを軸としたPC制御ソリューションによる新たな価値を日本の市場に広めるため、ベッコフの持つ様々なテクノロジーの普及に努めている。
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