検索
特集

量子コンピュータとAI、先進技術における日本の最新動向と位置付けモノづくり最前線レポート(2/2 ページ)

日本最大級の産学官連携イベント「イノベーション・ジャパン2019」(2019年8月29〜30日、東京ビッグサイト青海展示棟)において、科学技術振興機構(JST)事業セミナーで、JST研究開発戦略センター(CRDS)がAI技術および量子コンピュータ技術の最新動向について紹介した。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

盛り上がりを見せる量子技術

 一方、量子コンピューティングでは「世界が注目!? 量子コンピュータの最先端と未来」をテーマに、JST研究開発戦略センター システム・情報科学技術ユニットの嶋田義皓氏が動向を紹介した。

photo
JST研究開発戦略センター システム・情報科学技術ユニットの嶋田義皓氏が

 嶋田氏によると、現在は「量子コンピュータを含めて、量子技術全体が盛り上がりを見せている」という。量子技術は、量子力学を基にさまざまな性質を、人間の役に立つ技術に使うことを目的としたもの。量子技術1.0としては、半導体技術による光通信という形で既に身近になっているものがある。その流れをさらに広げ、量子革命2.0とよばれるような、量子力学の性質をさらに積極的に制御して、適用分野を広げていくエンジニアリングもでき始めてきた。量子技術の中には、センサー、暗号・通信、コンピュータ、シミュレーション、マテリアルなどがあり、これらが各種の応用を生むと期待されている。

 コンピュータの世界では、数値計算だけでなく、ビッグデータの解析、機械学習特徴量抽出、画像・メディア処理、組み合わせ最適化、暗号処理符号化・復号などの能力も要求されている。技術的には新しい計算の仕組みや、それを実現する計算機システムを新しいコンピュータパラダイムで対応するという方向にあり、その一つとして量子計算がある。量子技術には世界各国でも期待され、米国、欧州、中国などでは政府が年間100〜300億円程度の研究開発投資を行っており、日本でも量子技術全体を国として推進することが決められた。

量子コンピュータでカギを握るハードウェア開発

 現在、量子コンピュータはハードウェアがつくられ、新しいアプリケーションを探すという段階にあり、日本の企業の取り組みもみられる。

 量子コンピュータの計算原理は、量子ビットという0と1の両方の値を表せる特殊なビットを用意し、それをレジスターとして計算を進める。初期化(指数的規模の組み合わせの超並列処理)した量子レジスターを使うと、重ね合わせ状態といわれる量子力学が許す超並列計算が可能となる。これだけでなく、確率の波の干渉により正答確立の増幅(それ以外の答えの削減)を行い、これを経て最終的に、正しそうな答えだけを高い確率で取り出すというのが、全体の流れだ。

 そのため「普通の足し算、引き算など何でも計算が速いというわけてばなく、並列して干渉縞がつくれるアルゴリズムが用いられる特殊な問題だけ速い」(嶋田氏)というのが量子コンピュータの特徴だ。ただ、多数の量子アルゴリズムは理論的に知られているが、「現実に手に入る量子コンピュータ・デバイスでこれらのアルゴリズムを動かそうとすると十分な性能が出ない」(嶋田氏)という現状もあるようだ。

 量子コンピュータのハードウェアについては、数十量子ビットクラスの小規模量子コンピュータが研究開発されおり、IBM、グーグル(+UCSB)、QuTechとIntel、D-waveSystemsなどが取り組んでいる。しかし、今開発されている量子コンピュータは小規模で、検索や因数分解ができるようにするには1万量子ビットは必要であることから、今後20〜30年にはその規模に到達するには難しいとみられている。そのため、中規模の量子コンピュータを何か面白アプリケーションで使えないかという動きが広がっている。

 嶋田氏によると、その代表的な例が量子化学計算や量子機械学習であり、時代を表すキーワードはNISQ(Noisy・Intermediate-Scale・Quantum device)というものだという。NISQの意味はノイズあり(量子誤り訂正不十分で、エラー率は高い)、中規模スケール(50〜100量子ビット程度)の量子デバイスで、これが何か有用なアプリケーションに使えれば量子コンピュータの研究開発がさらに進むと期待されている。「量子コンピュータの将来性についてはハードウェアを有用に使えるソフトウェアの存在にかかっている」と島田氏は語っている。

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る