細胞が移動する方向を予測するAIを開発、がんの予後診断に期待:医療技術ニュース
慶應義塾大学は、現在の細胞の画像から、細胞がどの方向に移動するかを予測できるAIを開発した。がんの予後診断など、未来の予測が強く要求される医療分野への応用が期待される。
慶應義塾大学は2019年9月5日、細胞がどの方向に移動するかを予測できるAI(人工知能)を開発したと発表した。同大学理工学部生命情報学科 准教授の舟橋啓氏らと、山陽小野田市立山口東京理科大学の共同研究グループによる成果だ。
同研究グループは、細胞が遊走する際、事前にその形状を変化させるという性質に着目。細胞遊走で知られる、マウス線維芽細胞NIH-3T3、上皮がん細胞U373、hTERT不死化細胞RPE-1の顕微鏡画像を用意した。次に、移動する方向として、左上、右上、左下、右下のいずれかを各画像にひも付けてAIに学習させた。このAIは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)を基礎にしている。
学習したAIを用いて、学習に関与させていない細胞の画像から移動方向を予測させたところ、各方向への移動予測が正しいかを示すMCA(Mean Class Accuracy)が、NIH3T3細胞では87.87%、U373細胞は80.65%、hTERT RPE-1細胞では94.22%と高精度に予測できることが分かった。
次に、このAIが何を根拠に細胞の移動方向を予測したのかを調べるため、細胞が写った画像を解析した。これまでの分子生物学で、細胞が遊走する際には前部と後部に特徴的な形状が形成されることが分かっているが、画像解析の結果、今回用いたAIが細胞の形状変化を手掛かりに、移動方向を予測していることが確認できた。
これらの結果は、現在の細胞の画像から未来の状態を予測する際に、CNNを基礎としたAIが有用であることを示すものだ。また、このAIは画像を丸暗記して移動方向を見つけているのではなく、生物学的な根拠、つまり細胞遊走に必要不可欠な構造を画像から見つけ出すことで移動方向を予測していると言える。
現在の細胞から未来の状態を予測できるというAIの能力は、がんの予後診断など未来の予測が強く要求される医療分野への応用が期待される。
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