設備停止が命取りになる装置産業、日本製紙が予知保全に取り組むまで:スマートファクトリー(2/2 ページ)
「メンテナンス・レジリエンスTOKYO 2019」(2019年7月24〜26日、東京ビッグサイト)のモノづくり特別講演会に、日本製紙 北海道工場 白老事業所 工務部長代理兼白老電装課長である藤山道博氏が登壇。「製紙工場における設備保全の取り組みとIoT(モノのインターネット)活用」をテーマに独自の保全ソリューション「e-無線巡回」を導入した効果や、今後の取り組みを紹介した。
事後保全を予知保全に
一般的な設備保全方式は、「事後保全」と「計画保全」に分けられる。事後保全は故障が起こった後などに対応するという方式だ。一方の計画保全には、「時間基準保全(Time Based Maintenance、定期保全)」と「状態監視保全(Condition Based Maintenance、予知保全)」がある。この2つを比較すると、定期保全は計画を立てやすいが、メンテナンスが過剰になるという点が課題となる。予知保全は過剰メンテナンスを抑えられ突発的な故障を防ぎやすいものの、診断技能が必要で監視コストがかかるなどの課題がある。これらを比較した上で、同事業所では予知保全の比率を増やすこととした。
この予知保全を推進するためには、課題である状態監視の手間とコストの削減がポイントとなる。そのため、まずは一般的に販売されているシステムやソリューションの導入を検討したが「高価なものしかなく、最重要設備など限定された箇所以外では活用が難しかった」(藤山氏)。
そこで「自社で予知保全システムの開発を行うことを決めた」(藤山氏)という。安価、簡単設置(配線工事不要の無線式)を開発コンセプトにし、必要最低限の機能に絞り低価格化を目指した。また、開発には新製品開発推進委員会(社内ベンチャー)を活用し、IoT技術を用いたセンサーネットワークシステムの構築を目指した。
その結果、グループ会社のエンジニアリング事業会社である日本製紙ユニテックと共同で予知保全のシステムの開発に成功した。最終的には、製造設備など稼働中の機械装置に対し無線センサーで異常予兆を常時監視するシステム「e-無線巡回」として、外部に販売を行うようになったという。
「e-無線巡回」がもたらしたもの
従来の設備異常の予兆把握は、人が現場を巡回し、異常を発見する方法が中心で、巡回者の経験や勘という数値化できない技術や技能に大きく依存してきた。同システムでは稼働中の機械装置の「温度や振動加速度」データを蓄積し、数値データで傾向監視ができる。異常傾向が見られた設備については適切に対処することで設備トラブルを未然に防ぎ、操業の安定化に寄与することが可能だという。
システム構成は、主にモータなどの機械装置に取り付けるセンサー付きの「子機」(温度と振動などを測定し親機へ送信)、「親機」(一時的にデータを保持し、子機データをサーバへ送信)、データを蓄積、警報チェックする「収集用サーバ」、監視端末(測定データの監視、異常時の発報)などである。最小構成は親機1台、子機1台、PC1台としており、非常に簡単に予兆把握が行えることが特徴である。
白老事業所では事業所内のネットワークを利用し、建屋ごとに親機を置き(合計9台)、大型モニター付監視端末を保全事務所に設置している(各自のOA端末でも利用可能)。子機は2つのセンサーを搭載しており、それぞれで湿度と振動(加速度)の両方を測定できる。センサー先端に磁石をつけることで簡単に設置が可能だ。電動機の場合は負荷側と反負荷側に取り付けて測定を行っているという。
実際に測定を開始後に、駆動用モータに設置したセンサーで、ロール減速機受け軸の異常状態を観測し、故障前にメンテナンスを行えた。また、電動機(250kW)反負荷側(ファン側)の異常発生後の振動計測なども実際に行え、停止時間低減に貢献しているという。
このような事例を踏まえて、藤山氏は「e-無線巡回」を設置した効果について「リアルタイムでの状況確認やヒストリカルトレンドなど設備の運転状況が把握できるというのは大きい。閾値による警報出力などにより、設備の異常状態を自動検知(予兆検出)でき、パトロールなどの効率向上や、適切なタイミングでの保全が行えるようになった」と語っている。
IoTを活用した故障根治へ
また、今後の展望として安全作業支援へのIoT活用やリモート保守、スマートメンテナンスご意見番(AIスピーカー)などに取り組んでいく方針を示した。藤山氏は「IoT活用で実現できたことは、設備診断作業の業務改善と診断結果の見える化である。これらを土台とし、今後は故障根治対策や再発、類似防止へとつなげられる取り組みを進めていきたい」と語っている。
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