ミミズの筋肉で弁開発、電気を使わずに化学刺激で収縮:医療技術ニュース
理化学研究所と東京電機大学は、ミミズの筋肉組織を用いて電気刺激によらない化学エネルギーのみで動作する小型の弁を開発した。アセチルコリン刺激の結果、既存のバルブに匹敵する機能を持つことが明らかとなった。
理化学研究所と東京電機大学は2019年7月8日、ミミズの筋肉組織を用いて電気刺激によらない化学エネルギーのみで動作する小型の弁(バルブ)を開発したと発表した。アセチルコリンによる刺激の結果、既存の圧電素子を用いたバルブに匹敵する機能を持つことが明らかとなった。
共同研究チームはまず、フトミミズとアセチルコリン緩衝液を用いて化学刺激に対するミミズ筋肉シートの機械的特性を測定。その結果、応答にばらつきはあるものの力や収縮率は一般の小型バルブの圧電素子に劣らず、バルブ作製に利用可能であるとした。
次に、ミミズ筋肉を用いたバルブ設計を試作し、原理検証を行った。土台となるマイクロ流体チップ上に幅および深さ0.2mmの流路と直径3mmのチャンバーを作製。チャンバー上に厚さ0.1mmの膜と筋肉の収縮力を伝えるプッシュバーを置き、ミミズ筋肉シートを載せてピンで固定した。
これを用いて、電気パルス刺激とアセチルコリンによる化学刺激を与え、バルブとしての性能比較をした。電気パルス刺激では、シートは素早く収縮しバルブは閉じたが、収縮を持続するためには繰り返し電気刺激を行う必要があった。
一方、アセチルコリン刺激では、応答に時間を要したものの、最終的に収縮し、その状態が1分以上持続できた。また、刺激後に緩衝液で洗浄し再刺激することで、3回以上繰り返し使えることを確認した。この結果から、化学刺激によるミミズバルブは、このサイズのバルブとしては既存の圧電素子を用いたものに匹敵する機能を持つことを実証した。
本研究で開発したミミズバルブは、駆動源にも刺激にも電気を使わず、動きを外部から制御できる。研究チームは、体内埋め込みデバイスだけでなく、薬効試験など医学応用や外部からの電源供給を必要としない水流制御装置のモデルとしての工業応用など、さまざまな応用につながるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新たな機能性人工皮膚が医療機器として製造承認
京都大学は、開発・改良を重ねてきた機能性人工皮膚が、医療機器として製造承認されたと発表した。細胞を加えた人工皮膚と同等の治療効果を有し、皮膚再生治療が必要な患者に対して適切なタイミングで用いることができる。 - 次世代型補助人工心臓の開発へ、医療機器ベンチャー企業を買収
帝人が、補助人工心臓を開発するメドテックハートを買収すると発表。株式譲渡契約により、帝人はメドテックハートが開発を進める体外型補助人工心臓「MT-Mag」の日本および海外での承認取得、販売に向けて、本格的な取り組みを開始する。 - エレクトロニクスフリーの人工膵臓、血糖値に合わせて自律的にインスリン放出
名古屋大学が、機械や電気による駆動を必要としない、自立型の「人工膵臓」を開発した。この人工膵臓は、健常および糖尿病マウスにおいて3週間以上持続して、糖代謝を良好に制御した。従来の機械型膵臓に比べ、安価で使用負担も軽減する。 - 植込み型補助人工心臓システムの製造販売承認を取得
日本メドトロニックは、重症心不全の治療に用いられる「植込み型補助人工心臓システム HVAD」の製造販売承認を取得した。ポンプ内部のインペラと軸部は非接触で、血球成分へのダメージを低減することが期待されている。 - 皮膚のような柔軟性を持つ再生医療用ポリマーを開発
東レは、皮膚と同等の柔軟性を持つ再生医療用ポリマーを開発した。また、このポリマーの加水分解による分解速度を10倍に向上させる技術も見出した。医療用途をはじめ、さまざまな分野への適用が期待される。