皮膚のような柔軟性を持つ再生医療用ポリマーを開発:医療機器ニュース
東レは、皮膚と同等の柔軟性を持つ再生医療用ポリマーを開発した。また、このポリマーの加水分解による分解速度を10倍に向上させる技術も見出した。医療用途をはじめ、さまざまな分野への適用が期待される。
東レは2019年3月14日、皮膚と同等の柔軟性を持つ再生医療用ポリマーを開発したと発表した。また、このポリマーの加水分解による分解速度を10倍に向上させる技術も見出した。
同社は今回、乳酸の二量体であるラクチドとカプロラクトンを用いた特殊な共重合方法を開発。生体吸収性ポリマーが持つ、結晶を形成しやすい特性を大幅に低減して硬くならないようにした。これにより、元の長さの10倍に引き伸ばしても破断せずに復元する、生体組織と同等の柔軟性と耐破断性、復元性を併せ持つ生体吸収性ポリマーを作り出すことに成功した。
また、再生医療用のポリマーには生体追従性や分解性が求められるが、ラクチドとカプロラクトンからなる共重合体は、疎水性の高さから水が接近しにくく、加水分解に時間がかかる。そこで、エチレングリコールユニットの含有量を制御することで、ポリマーの柔軟性などに影響を与えることなく、分解性を10倍向上させた。
開発したポリマーを直径3mmの人工血管の外表面に被覆し湾曲させたところ、机上検討では、人工血管の動きにしなやかに追従した。また、動物実験の結果、同ポリマーの分解とともに人工血管の周囲から血管を構成する細胞が浸入し、人工血管を足場として血管組織が再生した。この人工血管は移植6カ月後も開存していた。
同ポリマーは、血管以外にも、皮膚や消化器、筋肉など柔らかい組織や臓器を再生する際の医療足場材料になり得る。また、汎用性が高いと見込まれるため、医療分野をはじめ、さまざまな分野への適用が期待される。
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