「スマートデザイン」を実現するMSCのシミュレーション技術:メカ設計 イベントレポート
MSC Softwareは、年次ユーザーカンファレンス「MSC Software 2019 Users Conference」を開催。全体会議の冒頭、同社 代表取締役社長の加藤毅彦氏が登壇し、「Smart Factory,Smart Designに向けて」をテーマに講演を行った。
エムエスシーソフトウェア(MSC Software)は2019年7月10日、年次ユーザーカンファレンス「MSC Software 2019 Users Conference」を開催。全体会議の冒頭、同社 代表取締役社長の加藤毅彦氏が登壇し、「Smart Factory,Smart Designに向けて」をテーマに、同社のビジョンと戦略について説明した。
後手に回る日本、悲観論的将来予測も仕方がない!?
まず、加藤氏が示したのは日本の悲観論的将来予測だ。超高齢化社会、人口減少など、課題先進国として何かと注目される日本は、今後、三流先進国、そして途上国になってしまうのではないかと、悲観的に見られることがあるという。「平均所得で見ても先進国の中で下位に位置し、購買力が不足して、消費が減少傾向にある。そんな状態にもかかわらず、東京の物価は世界的に見ても高いままだ。こうした課題を挙げていくと悲観的になってしまう気持ちも分かる」と加藤氏は述べる。
しかし、そうした苦しい状況の中、日本の対外資産は約1000兆円もあり、負債を差し引いた対外純資産残高においても300兆円以上あるという。加藤氏は、「戦後日本が経済成長できた背景にあるのは、公共投資、設備投資、人材投資、技術投資をしっかりと行ってきたことにある」と指摘。だが、その後、海外投資を優先したことで国内への投資が低下していき、結果的に経済成長を鈍化させる状況につながっていったのではないかと分析する加藤氏は「本当にこのままでいいのか。対外資産の一部を国内投資に回し、かつてのように国内の設備、人材、技術に投資すべきだ。今、そういう分岐点に来ているのではないだろうか」と主張した。
こうした国内投資の低下は、製造業における技術革新にも影響を及ぼしているとし、加藤氏は「IoT/IoEによるハイパーコネクティビティの実現によるプロセス自動化の領域で、既に日本は世界から後れを取っており、先行する国々は既にデータ連携による完全自動化システム(スマートファクトリー)の取り組みに進んでいる。今、手を打たなければ非常にまずい状態になってしまう」と警鐘を鳴らす。
だが、スマートファクトリーの取り組みに対して、日本がはじめから後れていたのかというとそうではないという。ここで加藤氏は、日本が世界に提案して実現した先端製造技術分野の国際共同研究プロジェクト「IMS(Intelligent Manufacturing Systems:知的生産システム)」について紹介。「このIMSの概念は、現在叫ばれているスマートファクトリーやデジタルツインと比較しても先進性のあるものだった。しかし、残念ながら日本は2010年にIMSから抜けてしまった」(加藤氏)。その背景には、バブル崩壊やリーマンショックなどの経済不況、さらには“すり合わせ”に代表される日本のモノづくり神話があるといわれており、日本が自ら提唱したにもかかわらずIMSから手を引いてしまったのだ。この判断が現在の状況にもつながっているというのが加藤氏の考えだ。
スマートデザイン、そしてスマートファクトリーの実現を目指すMSC
スマートファクトリーの実現に不可欠な要素は何か。それは、デジタルツインとデジタルスレッドだという。「デジタルツインとは、実世界とシミュレーションをベースとするバーチャル世界をデジタル技術でつなげることを意味する。現在、工場の中を見渡してみると、設計、生産技術、生産、検査の各プロセスでデジタルツインがバラバラに実現しているが、これらをデジタルスレッドでつなげることで、はじめてスマートファクトリーが完成する。MSC Softwareを含む、Hexagonグループは、CAE、CAD/CAM、計測用ソフトウェアおよびハードウェアなどの各要素を保有しており、これらを連携させることでスマートファクトリーの実現を支援する」(加藤氏)。
さらに加藤氏は、「スマートファクトリーの実現により、多品種少量生産、多品種一品生産の世界が訪れた際、無数のバリエーションに対応する設計は誰が行うのか? ここで必要になるのが『スマートデザイン』だ。シミュレーション技術で実現するスマートデザインにより、多品種少量生産に対応できる設計力を備えておくことが重要だ」と述べ、MSC Softwareがあらゆる領域のシミュレーション技術を保有する他、共通プラットフォーム「MSC Apex」、そして複合領域解析ソフト「MSC CoSim」を展開しており、スマートデザインを全面的に支援する用意があることを示した。
また、スマートデザイン、そしてスマートファクトリーの実現を支える技術はMSC Softwareだけでは足りないとし、Hexagonグループとして投資を継続するとともに、ビジネスパートナーのソリューションなどを組み合わせてカバーしていく方針を明かした。
最後に、加藤氏は「MSC Softwareの基本戦略は、『エンジニアリングシミュレーション(CAE)』『スマートデザイン』『スマートファクトリー』の3本の矢で構成される。ApexやCoSimの強化を継続し、CAE領域での存在感をさらに高めていく。そして、ビッグデータやIoTなどを活用しながらスマートデザイン、スマートファクトリーの実現につなげていく。最終的には、その先にあるIoEやAIを活用した持続可能な世界、『スマート社会』の実現に貢献できるような企業へと成長していきたい」と、基本戦略と今後の展望を述べ、講演を締めくくった。
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