DNPと富士フイルムが取り組む産業のデジタル変革、その裏を支える参照モデルの意味:製造マネジメントニュース(3/3 ページ)
日本マイクロソフトは2019年6月25日、業種や用途に特化したデジタル変革を支援する「Microsoft Partner Network(MPN) for Industryパートナー プログラム」の開始を発表。合わせて、同パートナープログラムを利用し、業種に特化したデジタル変革のレファレンスアーキテクチャ(参照モデル)構築に取り組むDNPと富士フイルムがそれぞれの事例を発表した。
ヘルスケア分野でデジタル変革に取り組む富士フイルム
富士フイルムでは、メディカルおよびヘルスケア分野において、医療機関で稼働している医療機器の予知保全サービスを展開。このサービス基盤としてAzureを採用しレファレンスアーキテクチャの構築に取り組むという。
富士フイルム R&D統括本部 メディカルシステム開発センター長 兼 メディカルシステム事業部 ITソリューション部長の鍋田敏之氏は「世界中で展開する医療機器の稼働情報をAzureに集約し、AIで故障の可能性を予知できるようにする。これらの取り組みにより予知保全を実現したい。予知保全により最大で10倍程度メンテナンス作業効率を高められると考えている」と期待について語る。
まずは2019年中に内視鏡の予知保全サービスから開始する。その後、富士フイルムが展開する他の医療機器にも適用範囲を広げ、医療現場全体の革新に取り組んでいく方針である。加えて、AI領域での連携強化などにも取り組んでいくとしている。
連携相手としてマイクロソフトを選んだ理由について鍋田氏は「医療機器の情報を扱うことからセキュリティが何よりも重要だと考えた。この点においてマイクロソフトはセキュリティ技術の面、コンプライアンスの面でも、グローバルでサポートが得られるという点が大きなポイントとなった。こうした新たなサービスはスピード勝負だと考えている。思い描くサービスが具体的に実現できる組み先がどこかということを考えてAzureを選んだ」と述べている。
ただ、全面的にマイクロソフトとの協業でこれらのデジタルプラットフォームを展開するかどうかは未定だとする。「医療機器における予防保全サービスのプラットフォームについてはマイクロソフトとの協業で進めることを今回決めた。しかし、医療領域での取り組みにおいて重要になるプラットフォームとして、診断支援サービスを展開するプラットフォームと医療機器の製造を行う製造現場のプラットフォームがあると考えている。将来的にはこれらの3つのプラットフォームを組み合わせ、有機的に連携させていくことが、富士フイルムの医療領域における差別化につながると考えている。現状では、残り2つのプラットフォームはどういう形にしていくかはまだ決まっていない」と述べている。
具体的な参照モデルを提供
マイクロソフトではこれらのパートナープログラムを通じて、産業特化型のレファレンスアーキテクチャの構築と提供を行う。具体的には製造業向けでは「Factory of the Future(スマートファクトリー向け)」「Intelligent Supply Chain(サプライチェーン革新)」「Product as a Service(製造業のサービス化)」などのレファレンスアーキテクチャを2019年第3四半期に提供予定だとしている。
日本マイクロソフトの高橋氏は「デジタル変革への取り組みにおいてマイクロソフトの特徴はオープンであることが挙げられる。データはユーザーに帰属し、マイクロソフトが勝手に利用することはない。あくまでもテクノロジー提供者の立ち位置でオープンな環境を提供し、デジタル変革を加速させていくことが目指す姿だ。レファレンスアーキテクチャを提供するといってもベンダーロックインを目指すわけではない」と立場を強調した。
関連記事
- コニカミノルタ、コマツ、東芝が取り組むそれぞれのデジタル変革
日本マイクロソフトは、製造業向けのデジタルトランスフォーメーションの取り組み事例を発表。新たにコニカミノルタとグローバルでの包括的提携を発表した他、工場向けでは小松製作所、エコシステムでは東芝との取り組みを紹介した。 - 製造業がデジタル変革で実現すべき3つのポイントとは――マイクロソフトの提案
日本マイクロソフトは製造業を取り巻く環境が大きく変化する中、「Factory of the future」「Product as a Service」「Intelligent Supply Chain」の3つの方向性での取り組みを進める方針を示した。 - 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。 - 製造業は「価値」を提供するが、それが「モノ」である必要はない
製造業が生産する製品を販売するのでなく、サービスとして提供する――。そんな新たなビジネスモデルが注目を集めている。サービタイゼーション(Servitization、サービス化)と呼ばれるこの動きが広がる中、製造業は本当にサービス業に近くなっていくのか。インタビューを通じて“製造業のサービス化”の利点や問題点を洗い出す。本稿では、サービタイゼーションを研究するペンシルバニア大学 教授モリス・コーヘン氏のインタビューをお伝えする。 - 製造業のサービス化、予兆保全は単なる「はじめの一歩」
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。しかし、そこで語られることは抽象的で、いまいちピンと来ません。本連載では、そうした疑問を解消するため、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて分かりやすくお伝えするつもりです。第7回は、前回に引き続き「製造業のサービス化」についてご紹介します。 - 製造業のデジタル変革は第2幕へ、「モノ+サービス」ビジネスをどう始動させるか
製造業のデジタル変革への動きは2018年も大きく進展した。しかし、それらは主に工場領域での動きが中心だった。ただ、工場だけで考えていては、デジタル化の価値は限定的なものにとどまる。2019年は製造業のデジタルサービス展開がいよいよ本格化する。 - 乗るしかない、この第4次産業革命というビッグウエーブに
本稿では、第4次産業革命という言葉の持つ意味、第4次産業革命を推し進める「デジタライゼーション」と「デジタルツイン」、第4次産業革命で重要な役割を果たす世代、そして第4次産業革命において日本の持つ可能性などについて解説する。 - 日本版第4次産業革命が進化、製造含む5つの重点分野と3つの横断的政策(前編)
経済産業省は2017年3月に発表した日本版の第4次産業革命のコンセプトである「Connected Industries」を進化させる。より具体的な取り組みを盛り込んだ「Connected Industries 東京イニシアティブ 2017」を新たに発表した。本稿では2回に分けてその内容をお伝えする。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.