工場で作らないのが理想? クラボウが描くスマートファクトリーの将来像:2020クラボウグループ繊維展(前編)(2/2 ページ)
クラボウは2019年5月28〜29日、都内で開発商品や新たな取り組みを提案する「2020クラボウグループ繊維展」を開催。「ヒューマン・フレンドリー発想 〜人にやさしく、地球にやさしく〜」をテーマとし、新規開発素材や新規サービスなどを出展した。前編では同社のスマートファクトリーへの取り組みを紹介する。
2021年までに「見える化」を実現
繊維産業は、個々の工程は自動化されている場合も多いが、それぞれの工程が大規模なものとなり、各工程そのものも非常に長くなる。
「大規模な設備であるために同じものを大量に流し、生産ラインは一度構築したら動かさないというのが生産性だけを考えると理想となる。しかし、市場のニーズが多様化する中、生産するものも多品種少ロット化が進んできている。結果的に段取り替えが増え、工程間調整なども増えることになり、現場への負担が高くなっている」と平田氏は課題について述べる。
加えて、個々の工程そのものも大規模なものとなるため、工程間の円滑な連携なども難しいという状況があった。「繊維生産は、大きく分けても紡績、織布、染色と加工、縫製という4つに工程が分かれている。さらに各工程の中でもいくつもの工程に分かれており、それぞれの工程がどうなっているのかというのをリアルタイムで把握できていなかった。細かい変更に対し、タイムリーに対応するというのが難しかった」と平田氏は説明する。
こうした状況を解決するためにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術を活用する。
「まずは各工程の情報を一元的に収集する情報基盤を作る。それぞれの工程がどういう状況にあるのかをリアルタイムに把握できるようにすることで、無駄な仕掛品の滞留などを起さないようにできる。工程の異常などもすぐに把握できるようになる」と山内氏は述べる。
具体的には、データを収集するシステムの開発や必要なデータを取得するためのセンサーや機器などの開発を進めているという。スマートファクトリー向けではIT製品や機器などもパッケージ化されたものが出てきているが「ITなど外部パートナーの協力は当然得ながら進めているが、繊維産業やクラボウの取り組みに最適なものが現状ではあまりない。TICで新たなものを設計しそれを外部パートナーと協力しながら形にしていくという流れだ」と山内氏は述べている。
クラボウでは現在2021年までの中期経営計画を進めているところだが、この中期経営計画期間中に全工程の「見える化」を達成する計画だとしている。「並行して自動化領域の拡大などにも取り組んでいく。これらを土台として2021年度以降にはさらに進めたモノづくりの新たな姿に挑戦し、目に見える形で市場競争力を生み出せるようにしたい」と山内氏は語る。
スマートファクトリー化への課題と理想像
スマートファクトリー化を進める上での課題について山内氏は「スマートファクトリーを実現するには、ITなどのデジタル技術への理解と、現状の生産現場への理解が必要になる。ITを理解する生産技術者、生産を理解するIT技術者が現実的にはほとんど存在しない。現状では両者でコミュニケーションしながら進めているが、言葉で得られる発想そのものが大きく異なり、それぞれ翻訳しながら理解を深めている状況だ」と試行錯誤しながら進める様子を紹介した。
これらの課題を乗り越えつつ、クラボウが描く理想のスマートファクトリーとはどういうものになるのだろうか。
山内氏は「アパレルを想定すると、最終消費者は本当の意味で一人一人に最適な製品を欲しいと考えている。しかし、従来のモノづくりは装置型生産で柔軟な生産を実現するのが難しく『大量の既製品の中から選ぶ』という買い方しかできなかった。しかし、デジタル技術を活用することで、より柔軟なモノづくりが可能になり、個々に最適な製品が作れるようになる。そういう世界を描くと、工場で大量生産するのではなく、個々のアパレルショップで最終消費者が好きなデザインや色などを選ぶとそこですぐに作るというような、分散型生産の姿が理想となるのではないだろうか。そうした姿を描きつつ、今何が必要かを見極めて、研究開発を進めていく」と将来像を描いている。
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