“人”の働きを自然に助ける“日本らしい”スマート工場へ、産総研が団体設立:スマートファクトリー(3/3 ページ)
産業技術総合研究所は2019年6月10日、「『人』が主役となるものづくり革新推進コンソーシアム(Consortium for Human-Centric Manufacturing Innovation、以下HCMIコンソーシアム)」の設立総会を開催し、同コンソーシアムでの取り組み内容を発表した。
実証の場となるCPS実験棟
さて、ここからは新たに2019年4月に完成したCPS研究棟の様子を紹介する。CPS研究棟は、HCMIコンソーシアム専門の施設ではないが、実証推進の中心となる施設である。地下1階には機械加工工場をイメージしたスペースと組み立て工場をイメージしたスペースを用意。1階には小規模店舗をイメージしたスペース、2階には、小規模半導体製造工場をイメージしたスペースと創薬実験環境をイメージしたスペースを用意している。本稿では機械加工および組み立てをイメージしたスペースについて紹介する。
機械加工をイメージしたスペース
機械加工をイメージしたスペースでは、3軸と5軸の切削加工機、積層金属造形が可能なレーザー加工機などを用意した。
ここでは「縦と横のモデル化を目指す」(HCMIコンソーシアム 運営委員長 谷川民生氏)としている。縦のモデル化とは加工のデータモデル化だとする。ワークの品質や加工機の環境などにより切削加工などは同じ設定では品質がばらつく。これらを熟練工が「経験や勘」を使い、最適な加工方法を実現しているというのが現状だが、これらの実証を進めることで加工および熟練工の知識の構造化を実現することを目指していく。
加工機からのデータ取得も行うが、データが不足している部分は新たにセンサーなどを設置して最適なモデル作成を進めていく。「センサーの設置についてもどこにどのようなセンサーを設置すれば、どういう結果が得られるのかという、モデル化が進んでいない状況だ。これらについても知見を得て、共通基盤化できるようにしていきたい」と谷川氏は述べている。
一方、横のモデル化については、生産ラインを形成する加工機同士、もしくは工場間の連携などをイメージしている。それぞれの加工データなどが異なる中で「最適な加工を実現するためにはどのデータとどのデータを組み合わせて判断すべきか」など機器のデータの関連性を把握して、最適な加工条件などが実現できるようにする。CPS研究棟内の機器連携だけでなく、つくばの実験棟の機器との連携なども行えるようにしているという。
組み立てをイメージしたスペース
組み立てをイメージしたスペースでは、天井にモーションキャプチャー用のカメラが設置されており、人の動作を把握できるようにしていることが特徴だ。「あらゆる動作を行う中での人の動きや負荷などを把握する」(谷川氏)。
これらで人の動きを把握しつつ、ロボットの各種センサーなどにより、ロボットの動きなどもつかみ、人とロボットが自然な形で協力する姿の実現に取り組む。具体的には「人の労働環境の改善」「人とロボットの共存(安全性など)」「人とロボットの協調(協働)」などの実現を目指す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- いまさら聞けない「デジタルツイン」
デジタルツインというキーワードを、IoT活用やデジタル変革(DX)の流れの中で耳にする機会が多くなった。デジタルツインとは何か? について「5分」で理解できるよう簡単に分かりやすく解説する。 - 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。 - 自律するスマート工場実現に向け、IoTプラットフォーム連携が加速へ
製造業のIoT活用はスマート工場実現に向けた取り組みが活発化している。多くの企業が「見える化」には取り組むが、その先に進むために必要なIoT基盤などではさまざまなサービスが乱立しており、迷うケースも多い。ただ、これらのプラットフォームは今後、連携が進む見込みだ。 - 見えてきたスマート工場化の正解例、少しだけ(そもそも編)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第28回となる今回は、スマート工場化において見えてきた正解例について前提となる話を少しだけまとめてみます。 - スマートファクトリーはエッジリッチが鮮明化、カギは「意味あるデータ」
2017年はスマートファクトリー化への取り組みが大きく加速し、実導入レベルでの動きが大きく広がった1年となった。現実的な運用と成果を考えた際にあらためて注目されたのが「エッジリッチ」「エッジヘビー」の重要性である。2018年はAIを含めたエッジ領域の強化がさらに進む見込みだ。 - 人手不足対策で完全自動化は逆効果、人とロボットの協力をどのように切り開くか
人手不足に苦しむ中で、工場でもあらためて自動化領域の拡大への挑戦が進んでいる。その中で導入が拡大しているのがロボットである。AIなどの先進技術と組み合わせ、ロボットを活用した“自律的な全自動化”への取り組みも進むが現実的には難易度が高く、“人とロボットの協調”をどう最適に実現するかへ主流はシフトする。 - 協働ロボット、ロボットシステムに残された課題と未来
協働ロボットを現場で活用するのにどのような工夫が必要か――。ロボット技術の総合展示会「2017国際ロボット展」では、ロボットメーカーおよびユーザー企業によるパネルディスカッション「ロボットフォーラム2017」が実施され、協働ロボットの意義について語った。