人体通信で医療IoT、加速する医療機器のモバイル化――MEDTEC Japan 2019レポート:MEDTEC Japan 2019レポート(3/3 ページ)
医療機器の設計・製造に関するアジア最大級の展示会「MEDTEC Japan 2019」が2019年3月18日〜3月20日に開催された。本稿では、同展示会のレポートとして、医療エレクトロニクス関連の展示を中心に紹介する。
より“人に優しい”脳波計、AIによる応用も視野に
日本メクトロンは、伸縮(ストレッチャブル)フレキシブル基板(FPC)に関する製品や関連技術などを出展した。
FPCとは、絶縁性を持った柔軟性のある回路基板のこと。薄くて自在に曲げることができるため、電子機器の小型化や軽量化、薄型化には欠かせない製品だ。中でも、ストレッチャブルFPCは、従来のポリイミドをベースとしたFPCとは異なり、エラストマー上に導体を形成したもの。伸縮性や柔軟性、通気性に優れており、生体用途に使われる電極シートとして幅広い用途での可能性がある。
今回の同社の出展ブースでは、脳波計開発を手掛けるベンチャーのPGVとともに「パッチ式脳波センサー(EEG)」を展示した。パッチ式脳波センサーは、大阪大学 産業科学研究所 関谷研究室と共同で開発したもの。関谷研究室がセンサーを開発し、日本メクトロンが基板となるストレッチャブルFPCを提供している。
パッチ式脳波センサーは、最大300%まで伸びて導通を維持し、ワイヤレスで脳波を計測する。重さは約24gで、厚さは60μm。「従来の基板は固くて人体に直接貼るものではなかったが、ウェットな素材を採用することでより人に優しく低侵襲で装着できる点が特徴。装着時のノイズが発生せずに、微細な脳波の信号をきめ細かく検知して測定精度を高めている」(PGVの説明員)
日本メクトロンの親会社であるNOKによると、この電極シートは妊婦の胎内にいる胎児の鼓動を測定する用途にも利用できるという。一般家庭での利用を見据えつつ、さらなる精度の向上も目指している。
PGVは、EEG技術を中核として脳波データを用いたプラットフォーム事業を展開。データ解析には人工知能(AI)のディープラーニング(深層学習)技術を活用し、「ニューロマーケティング」「睡眠解析」などへの応用を目指している。
また、NOKのブースでは、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の事業で取り組んできた成果である「電極内蔵型ナノポアモジュール」を開発品として出展した。
電極内蔵型ナノポアモジュールは、インフルエンザなどのウイルスや細菌の種類をより素早く検知するための技術を搭載。小さい穴を開けて、そこに粒子を通すことで変化する体積や断面形状、表面電荷情報などを波形に反映し、それを機械学習で解析することで1粒子ごとに識別できる。亜型インフルエンザを精度99%以上で識別でき、感染症の早期発見、拡散防止に役立てられるという。
介護支援ロボットも展示
オムロンは、介護施設で使う介護支援ロボット「HAL介護支援用(腰タイプ)」を展示していた。腰痛予防や腰の負担を軽減するロボットだ。2015年から取り扱いを開始している。
生体電位信号を読み取ることで、移乗介助や体位変換介助などを行う際の腰部の筋肉や腰椎、椎間板にかかる負担を軽減する。
HALの重さは約3kgで、充電式のバッテリー駆動で約4.5時間連続稼働する。同社の説明員によると「小型化や軽量化が差別化要因で、10秒あれば装着できる点も特徴の1つ」という。基本的にはレンタルでの利用を想定している(購入も可能)。
超高齢社会を見据え、医療サービスの提供形態は「病院完結型医療」から「地域完結型医療」への転換を目指している。今後は、高齢者を中心とする在宅医療がより重視されることになる。医療機器もこれからは病院の外となる家庭などで利用されるケースも増えている。そのため、簡易かつより高精度な測定機器の開発が進められている。今回のMEDTEC Japan 2019でもそうした動きが多く見られた。これからの医療の形に添う傾向といえるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- モバイル化する医療機器、AIとロボットの活用も進む
東京ビッグサイトで2018年4月18〜20日に開催された「MEDTEC Japan 2018」。今回は、医療機器のモバイル化やAI、ビッグデータなどの先進技術に関する同イベントでの展示内容を紹介する。 - 医療機器のAI活用で期待される画像診断支援、国のゴーサインはいつ出るのか
パシフィコ横浜で2018年4月13〜15日に開催された「2018 国際医用画像総合展(ITEM2018)」。今回は、医療分野におけるAI(人工知能)技術に関する同イベントでの展示内容を中心に主要各社の取り組み状況を紹介する。 - 最新の医療機器を使った模擬手術室から新たな種は生まれるか
医療機器設計/製造の展示会「MEDTEC Japan 2017」で目玉展示の1つになったが、日本臨床工学技士会が協力した模擬手術室だ。 - 8K映像の内視鏡で遠隔医療、据え置き画質の超音波画像をモバイルで
ソシオネクストは、「MEDTEC Japan 2017」において、内視鏡手術などで用いられる高精細な8K映像をエンコード/デコードする技術を披露。モバイル医療機器ソリューション「viewphii(ビューフィー)」のアップデートも紹介した。 - PC作業中のバイタルモニタリングはマウスで、“低拘束”のセンサーで実現
アルプス電気は、「MEDTEC Japan 2016」において、脈拍に加えて、動脈と静脈のヘモグロビン度、酸素飽和度を同時に測定できる「ウェアラブル近赤外分光センサ」を展示。体の各所にセンサーを軽く当てるだけで計測できるという“抵拘束”も特徴の1つだ。 - 動いてる間でも正確に脈拍を測定、ルネサスがスマートアナログマイコンで実現
ルネサス エレクトロニクスは、「MEDTEC Japan 2016」において、高精度に脈拍を測定できるソリューションを展示した。 - 圧電センサーで加速度脈波波形をリアルタイム計測、血管年齢の測定が簡易に
太陽誘電は、医療機器設計/製造の展示会「MEDTEC Japan 2015」において、同社が開発したインテリジェント圧電圧力波センサー「AYA-P」を使った脈波計測への適用事例を紹介した。加速度脈波の波形をリアルタイム計測できるので、血管年齢の測定が容易になるという。