検査員登用試験でカンニング――スズキに生じた検査を軽視する姿勢:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
スズキは2019年4月12日、完成検査で発生した不適切行為に関する報告書と再発防止策を国土交通省に提出した。また、同社は適切な完成検査を受けていない可能性があり初回車検を受けていない約200万台の車両を対象にリコールを実施する意向を明らかにした。
検査員の人員不足が常態化、そして現場も完成検査を軽視
また、調査報告書では多岐に渡る検査体制の構築に関する不適切事案が指摘された。訓練期間中で検査員登用試験に合格しておらず、単独で完成検査を行えない「検査補助者」が単独で検査を行っていたこと、検査補助者が他人の検査印を借用していたこと、正規の訓練課程が開講されなかったことなどが挙げられる。
検査補助者が検査印を借用して単独で完成検査が行っていた事案
スズキでは、検査補助者に対して3カ月の作業訓練を行った後、学科と実技の登用試験への合格者を検査員に任命する検査体制を構築している。しかしながら、1981年頃から2017年11月に社内規定が見直されるまでの間、検査補助者が検査員の監督なく単独で完成検査を行っていた。
調査チームによる検査補助者へのヒアリングでは、「検査員になる教育のときに、初めの頃は付きっきりで教えてくれたが、忙しいからか知らず知らずのうちに離れていって、全部に習熟していないのに一人で完成検査をすることがあった。」「訓練を始めて1、2カ月すると付き添いの人が付いたり付かなかったりするようになり、登用試験前の完成検査に慣れた頃からは一人で完成検査を行っていた。」(スズキ外部調査報告書)といった声が上がった。
教育担当の検査員からも「これまで10年以上にわたって指導を行ってきたが、自分の検査印を貸して検査補助者に完成検査を行わせた。」「検査員になるまでの間、班長から検査印を借りて完成検査を行っていたため、班長になった後も教育を担当した検査補助者に検査印を貸して完成検査を行わせていた。」(スズキ外部調査報告書)といった供述があったという。
さらに、「現場の役職者である検査員は『検査現場の人員が足りないため、少しでも早く検査員として登用し、一人で完成検査業務に従事させる必要があった。私は、本社に対して、現場の人員不足を上申したことがあったが、本社は、かかる現場の状況を理解しようともしなかった。』」(スズキ外部調査報告書)と話す人物も存在した。
調査報告書では、余力の乏しい人員計画を象徴するような同社の取り組み「少人」が取り上げられた。少人の本来の意味は「生産段階における目標の一つであり、余剰となる工程の削減や作業の自動化等を通じた効率的な生産を目指すもの」(スズキ外部調査報告書)であるが、スズキでは工場全体での人員削減という趣旨でも用いられたと調査報告書は指摘。少人を達成するため、検査員の定年退職時に増員を行わなかったり、検査員を事務職に異動させたりすることで人員を削減していたという。
検査員登用試験の未実施や解答を教える事案
スズキでは、検査補助者が学科と実技の登用試験を受験し、それぞれ80%以上正答した場合に検査員に登用される。しかしながら、実技試験が実施されなかった事案や検査補助者が受験していない完成検査工程で合格したかのように記録されている事案、学科試験で試験監督者が事前または試験中に解答を教える事案などが発生していた。
学科試験で試験監督者が事前または試験中に解答を教える事案では、受験経験者より「当時の班長から、事前に試験問題及び解答が知らされていた」「事前に試験問題と解答が配布されるため、正解が分からなくとも合格することができる」「試験問題は毎回同じである上、試験問題は、誰でも見ることができる状態でデータとして保存されていた」(スズキ外部調査報告書)との供述が見られた。
また、試験監督者の経験者からは「学科試験受験者のレベルが低かったため、事前に出題内容を知らせていた」(スズキ外部調査報告書)との証言を行った人物も存在。これらの声からも、同社検査現場では完成検査制度を軽視する風潮があったと読み取れ、同社が策定した再発防止策でも「不正行為が行われていた最大の原因は、完成検査業務の重要性に対する当社の自覚の乏しさである」と表明している。
外部調査報告書の指摘事項を踏まえ、「経営陣による完成検査を含む品質保証へのコミットメント強化」「業務量の正確な把握及び適正な人員配置並びに検査員数に見合った柔軟な生産計画及び生産目標の策定」「検査を適切に行うための設備及び環境の整備」「強固な規範意識の醸成」などの再発防止策を実行する。今後5年間にわたり1700億円規模の投資を行う方針だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 全てデータ調べたはずが残っていた、国交省がスズキに遺憾の意
国土交通省は2018年9月26日、スズキに対し、完成検査に関する不適切事案の徹底調査と、再発防止策の策定を自動車局長名で指示した。同年8月末の国土交通省の立ち入り検査を踏まえてスズキが改めて社内調査を実施したところ、新たに482台のトレースエラーがあったことが判明した。測定値や試験条件の書き換えや、データが残っていないと説明した二輪車についてもトレースエラーが見つかった。 - 2018年度のリコール件数は過去2番目の多さ、制御プログラムの不具合が影響大
国土交通省は2019年4月12日、2018年度のリコール届け出について、件数と台数の速報値を発表した。届け出件数は、国産車が前年度比26件増の230件、輸入車が同5件増で過去最多の178件となり、合計408件に上った。合計では過去2番目に多い届け出件数となる。 - 社運をかけたダンパー開発の功績者が主犯、川金HDの不適切検査
川金ホールディングスは2019年2月7日、同社子会社で発生した免震・制振用オイルダンパーの不適切検査事案について、調査報告書と再発防止策を発表した。調査報告書では免震・制振用オイルダンパー事業に対する当時の経営判断や開発体制など多くの問題点が指摘され、現場が不正を犯す背景が浮き彫りとなった。 - 相次ぐ品質不正、その発生原因と検討すべき対応策
品質不正の連鎖は収束する気配を見せません。品質不正は一企業の問題で済むことでなく、産業全体の停滞を招く可能性も十分にあります。本連載では相次ぐ品質不正から見える課題とその処方箋について、事例を交えつつ全7回で解説します。 - 日本製造業の品質保証が抱える問題、解決の方向性を示す
2017年後半から検査不正問題や製造不良による事故の発生が相次ぎ、高品質をウリとする日本製造業ブランドを揺るがしかねない状況です。そこで本連載では、これまで日本製造業では品質保証をどう行ってきたのか、品質保証における問題は何かといった点に注目し、問題解決の方策について各種手法や最新技術の活用、組織マネジメント論の面から取り上げます。 - 2019年も検査不正は続くのか――モノづくりのプライドを調査報告書から学べ
2018年に不適切検査を公表した企業は原因がどこにあると考え、どのようにして再発を防止するのか。その答えは各社の調査報告書でたどることができる。本稿では、不正を犯す現場がどのような状況にあるのか、そして不正のない現場で今後不正を出さないためにできることを検討する。