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2019年も検査不正は続くのか――モノづくりのプライドを調査報告書から学べMONOist 2019年展望(1/4 ページ)

2018年に不適切検査を公表した企業は原因がどこにあると考え、どのようにして再発を防止するのか。その答えは各社の調査報告書でたどることができる。本稿では、不正を犯す現場がどのような状況にあるのか、そして不正のない現場で今後不正を出さないためにできることを検討する。

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 2018年も相次いで発覚した製造業の品質問題。中でも、品質を確保するために欠かすことができない工程である「検査」に不祥事が目立つ。規定された試験条件の逸脱に始まり検査データの改ざん、果てには検査自体の未実施という事案もあった。

 2018年に公表された不適切検査は18事案あった(MONOist編集部調べ)。表1に不適切検査の事案を示した。並んでいる企業名は化学製品等の素材メーカーから部品メーカー、最終製品メーカーまで多岐に渡る。特に、自動車メーカーによる完成検査問題や免震・制振用オイルダンパーの検査データ改ざん問題は大手メディアの報道も多く、いかに社会への影響が甚大であったか推察できる。

表1:2018年に公表された不適切検査(年表記なしの日付は2018年、MONOist編集部調べ、2019年1月8日現在)
企業名 一連事案の初公表日(2017年に公表したものも一部含む) 対象製品 不適切行為の概要と規模や特筆点 調査報告書や再発防止策の公表日
トーカン(三菱電機子会社) 11月26日 産業用、電子機器用ゴム製品など253種 顧客規定検査の未実施や基準違反など。783万部品を出荷 12月4日
中山製鋼所 10月31日 圧延用ロール、非金属用ロール 検査データの改ざん。 10月31日
光陽精機など(川金ホールディングス子会社) 10月23日 免震・制振用オイルダンパー 検査データの改ざん。製品出荷の全時期で不適切検査を行ったとみられる
KYB 10月16日 免震・制振用オイルダンパー 検査データの改ざん。約500物件に影響
東京計器 10月5日 油圧弁やポンプなど一般産業用油圧機器 検査の未実施や検査データの改ざん。約6000台を出荷 12月25日
淀川製鋼所 9月21日 圧延用ロール、非金属用ロール 検査データの改ざん。 10月19日
クボタ 9月12日 圧延用ロールと圧縮機用シリンダーライナー 検査データの改ざん。1977年には始まっていたとみられる 11月29日
フジクラ 8月31日 送電用電線や通信用ケーブルなど73種 検査の未実施や検査データの改ざんなど。1987年から始まっていたとみられる
スズキ 8月9日 自動車 完成検査で検査データの改ざん、試験条件の逸脱など。 9月26日(継続調査中)
マツダ 8月9日 自動車 完成検査で試験条件の逸脱。 8月9日
ヤマハ発動機 8月9日 自動車 完成検査で試験条件の逸脱。 8月9日
日立化成 6月29日 半導体材料、無機材料、自動車部品など30品目 顧客規定検査の未実施や検査データの改ざんなど。全事業所で不適切検査 11月22日
住友建機グループ、住友重機械ハイマテックスなど住友重機械工業グループ 6月20日 圧延ロール、建設機械、フォークリフトなど 検査の未実施や検査データの改ざんなど。2019年1月にグループ他社でも不適切検査を発表
日本ガイシ 5月23日 がいし、避雷装置、断路器など 顧客規定検査の未実施や基準違反など。約1億個を出荷 7月27日
椿本鋳工(椿本チエイン子会社) 5月15日 球状黒鉛鋳鉄品、CV黒鉛鋳鉄品など 検査データの改ざん、検査成績表への他データ流用 5月15日
寺岡製作所 4月6日 工業製品用片面・両面粘着テープ 検査データの改ざん、納入仕様書の規格から外れた製品の出荷 7月20日
宇部興産と同社子会社5社、海外法人1社 2月23日 低密度ポリエチレン、石灰石骨材など24製品 検査の未実施や検査データの改ざんなど。1970年代から始まっていたとみられる 6月7日
丸善石油化学(コスモエネルギーホールディングス子会社) 2月2日 ベンゼン、トルエンなど化学製品21品目 顧客規定検査の未実施。顧客121社に出荷 4月4日
三菱マテリアルの子会社5社 2017年11月23日 シール材、黄銅条、アルミ材など 顧客規定検査の未実施や検査データの改ざんなど。該当社元役員を起訴 3月28日
シチズン電子(シチズン時計子会社) 2017年11月10日 照明用LED部品 認定試験所発行の試験レポートを数値書き換えなど。不適切なロット番号貼り付けも発覚 2月9日
SUBARU 2017年10月27日 自動車 完成検査で検査データの改ざん、試験条件の逸脱など。大規模リコールに発展 9月28日
日産自動車 2017年9月30日 自動車 完成検査で試験未実施や検査データの改ざん、試験条件の逸脱など。大規模リコールに発展 9月26日
【追記あり】中山製鋼所、淀川製鋼所、住友重機械工業グループを追記しました(2019年1月24日)。椿本鋳工、寺岡製作所を追記しました(2019年1月28日)

 2018年に不適切検査を公表した企業は原因がどこにあると考え、今後どのようにして再発を防止するのか。その答えは各社が立ち上げた調査委員会の報告書(以下、調査報告書)でたどることができる。

 調査委員会は通例、企業と利害関係のない弁護士などの外部専門家を全員または過半数以上委託することで構成される。企業から独立し中立な視点より、関係者への聞き取りやアンケート、関連資料の精査、デジタルフォレンジック等で調査するため、不正内容の事実認定と再発防止策の提言には一定の信用があると考えられる。

 本稿では不適切検査事案の調査報告書をひもとくことで、不正を犯す現場がどのような状況にあるのか、そして現時点では不正のない現場であっても、今後不正を出さないためにどうすればよいのかを検討していきたい*)

*)本稿の内容は表1に掲載する企業が公開している調査報告書、または再発防止策を参考とした。参考とした調査報告書の一部で、日本弁護士連合会が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に準拠した調査委員会(いわゆる第三者委員会)で作成されていないもの、または第三者に調査協力を依頼し当該企業の責任で作成したものを含んでいる。

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