2019年も検査不正は続くのか――モノづくりのプライドを調査報告書から学べ:MONOist 2019年展望(2/4 ページ)
2018年に不適切検査を公表した企業は原因がどこにあると考え、どのようにして再発を防止するのか。その答えは各社の調査報告書でたどることができる。本稿では、不正を犯す現場がどのような状況にあるのか、そして不正のない現場で今後不正を出さないためにできることを検討する。
不適切検査を行う原因、その時現場では何が起こっていたか
ここで、日立化成の事案を簡単に振り返る。同社は2018年6月29日に産業用鉛蓄電池で検査データ改ざんを発表後、特別調査委員会を設置した。その後、同年11月2日に産業用鉛蓄電池以外でも不適切検査を行っていたことを明らかにした*)1。同月22日に記者会見を開き調査報告書を公表するとともに再発防止策も発表している*)2。
※)1 関連記事:日立化成の不適切検査がさらに拡大、新たに29製品で発覚
※)2 関連記事:日立化成の不適切検査、「2008年問題」にその原因を見る
調査報告書の総ページ数は441ページにも達しており、本稿で参考とした調査報告書の中で最も文量が多い。特筆すべき点としては、同社は7つある事業所の全てで不適切検査を行っていたこと、検査の未実施やデータ改ざん、試験条件の逸脱など不適切行為が多岐に渡っていたこと、約20年もの間で不適切検査が続いた製品があること、事案発表後にも事業所長が経営陣に対して事実関係を隠ぺいしようとしたことが挙げられる。2018年に公表された不適切検査の中でも、同事案は規模と手法の幅広さ、そして悪質性からも代表格であるといって過言ではないだろう。
日立化成の調査報告書は同事案の原因についてどのような点を指摘しているのか。以下のように大別し、分析を行っていた。なお、他社事案の原因分析についても概ね同一の指摘となっている。
- 全社的な組織風土の問題
- 現場の品質に対する意識欠如
- 品質保証体制の整備が不適切
- 不適切な表示の予防と発見体制が不十分
現場レベルに深い関わりがあるのは1点目から3点目だ。4点目は全社的なリスク管理体制や内部監査制度、内部通報制度について言及している。1点目から3点目のそれぞれを調査報告書から読み取れる現場の声とともに詳細を確認する。
品質に対する甘えがあり、顧客に対して過度な迎合があった
1点目の「全社的な組織風土の問題」と2点目の「現場の品質に対する意識欠如」については、自社製品の品質に対する“過信や甘え”、そして品質保証部門の軽視に起因している。自社製品の品質に対する自信は当然あってしかるべきだが、確かな設計、生産、そして検査がそろって初めて確立する自信でなくてはならない。
その中でも検査担当者の役割は非常に重いものがあるが、不適切検査を犯した企業の現場では次のような声が上がっていた。
当委員会がヒアリングを行った関係者の多くが「日立化成の製品の性能には自信がある」と述べており、また、「出荷検査を適切に行わなかったとしても、製品の性能について顧客に迷惑を掛けることはない」との考えによって自身の不適切行為を正当化する傾向が見受けられた。(中略)品質保証部の関係者の中には、出荷検査の対象となる性能の多くは安全性に直結しないとして、安全性に関係しない性能を軽視する発言をする者もいる――出典:日立化成調査報告書 420〜421ページ
本件不適切行為の実行者及び関与者の多くは、「顧客が使用する上での性能が担保されているのであるから、多少顧客仕様を満たさなくても問題ない。」という誤った考えを有していた。――出典:クボタ調査報告書 28ページ
完成検査員の立場が車両製造工場内で軽視されていると述べる完成検査員は多く、完成検査員自身がそのように捉えている――出典:日産自動車調査報告書 87ページ
これらの声は、経営層から現場に至るまで品質に対して甘えがあったこと、そして品質保証部門自身も自らの役割を軽んじていたことを端的に示している。また素材メーカーや部品メーカーでは、顧客からの要求やプレッシャーへ過度に迎合するあまり不正を犯したという声もあった。
顧客との関係性について、「顧客に正直に言えないのは、騙そうという意識ではなく、顧客対応へのハードルの高さが身に染みており、事実を正確に顧客に伝えられないことが動機になっている」と述べる者もいた。――出典:日立化成調査報告書 423ページ
納期の順守を過度に重視するあまり、製品の安全性や品質に実質的な問題がないことを理由に品質保証業務を軽視する傾向が認められ、(中略)不適切行為に及んでまでも納期を順守した理由について、複数の試験担当者らが、製品の供給を止めてしまうことにより顧客に対して迷惑を掛けることはできないという意識があった旨を述べている。――出典:宇部興産調査報告書 116ページ
顧客からの要求に対して最大限の対応を行うことはビジネスにおいて当然のことだ。しかし顧客からの限度を超えた要望や自社リソースを超過する要求に対して、「競合他社に受注を奪われてしまうといった意識」(宇部興産調査報告書)から安易に受け入れてしまったことも不適切検査を考えるうえで重要な背景だろう。
なお、日立化成調査報告書では過去に同社がカルテル行為で行政処分を受けたことも触れ、「『正攻法』で顧客と正面から向き合うことを避ける姿勢や、顧客に対して面従腹背する姿勢が、一方では従業員を競合他社とのカルテル行為に走らせ、他方では従業員を検査データ改ざんに走らせるという意味では、両者は同根とも言えるものである」と指摘している。
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