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地場の金属加工会社がIoTを導入して生まれた効果は「30%以上の利益増」メイドインジャパンの現場力(23)(2/2 ページ)

ケーアイ工業はステンレスやアルミなどの加工を得意とする、約60人の従業員を抱える中堅規模の金属加工会社だ。1983年設立の同社は、1996年に3D CADの導入、1997年に現在まで運用を続ける生産管理システムの内製による構築、2000年に公式Webページの開設などITの導入にいち早く取り組んできた。本稿では、IoT導入に対する同社の取り組みを紹介する。

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2つのIoTソリューションを導入、社内の変革も成し遂げる

 稲葉氏はこれらの経営課題を解決するため、IoTソリューション導入に向けた情報収集を開始した。2018年2月、パナソニック ソリューションテクノロジー(PSTC)の見える化ソリューションが紹介された記事を稲葉氏が閲覧し、同ソリューションに興味を持った稲葉氏はPSTCへ連絡。これが最初の第一歩となった。

 その後、PSTCからIoTを用いた生産現場見える化ソリューションの提案を受け、「われわれの工程を探ってもらい導入できるとの思いを持った」(稲葉氏)ことから、ケーアイ工業は2018年8月から導入準備を本格的にスタート。同年12月から運用を開始した。

 ケーアイ工業が導入したIoTソリューションは、「稼働状況見える化」と「作業指示書の所在見える化」の2種となる。稼働状況見える化では、工場の既存設備28台に電流センサーを後付けし、設備の改造なく稼働状況を外部から測定する仕様とした。また、工場の各所にバーコードリーダーが設置され、作業者は加工の開始と終了時に各自が持つバーコードをかざすことで作業内容や時間を自動記録される。これらデータは社内サーバに蓄積され、リアルタイムモニタリングや過去の稼働状況分析に用いられる。


各工作機械にセンサーを後付けし、稼働状況を測定する(クリックで拡大)
左:バーコードリーダーにバーコードをかざす様子。バーコードリーダーの外装はケーアイ工業が製作した 右:バーコードをかざすとバーコードリーダーで作業の開始、終了を記録できる(クリックで拡大)

 また、作業指示書の所在見える化では作業指示書にビーコンを取り付け、ワークの現在位置や加工進捗を可視化する。これは案件ごとにワーク形状が大きく異なり、ワークへのビーコン設置が困難なためだ。PSTC側から「ワークと共に移動する作業指示書にビーコンを取り付けては」という現場に寄り添った提案によるものだ。

左:作業指示書に取り付けられたビーコン 右:工場に設置されたPoE対応のビーコン受信機(クリックで拡大)

 工場には5m間隔でビーコン受信機が設置され、受信範囲にあるビーコンの位置情報をパナソニックのクラウドへ送信する。ビーコンはPoE(Power over Ethernet)で動作するため電源の配線も不要とした。


Webアプリケーションで可視化された各工程におけるワークの所在。青色の工程は10個以上のワークが滞留していることを示している(クリックで拡大)

 これらのソリューションによって、各工程の実績作業時間を正確に把握することが可能となった他、「作業者自身もこれまでより迅速な作業を心掛け、稼働率が上昇している。また、生産性や品質に関する課題もリーダー役だけでなく工場の皆で討議するようになった」(稲葉氏)と、社内で多くの変革があったという。

今後もITの導入に注力するケーアイ工業

 同ソリューションの導入にあたり、ケーアイ工業は国の「ものづくり・商業・サービス経営力向上補助金(通称:ものづくり補助金)」を活用したが、自社負担も約1600万円と決して少なくない。一方、稲葉氏は「3年で投資を回収する予定だが、もっと早くペイできるかもしれない」と自信を見せ、「利幅が10%程度上昇するとみている。実際に2月実績では30%以上の利益増加を果たした」と既に収益改善へ貢献していることを明かした。

 「うちの会社はなるべくIT化を進めていく。人の感情に左右されないシステムの構築を進めていく」と語る稲葉氏。ケーアイ工業は「これから2年間に得た増益分をAI(人工知能)など新技術へさらに投資し、新たな生産管理システムの構築に挑む」(稲葉氏)と、今後もITの導入を推し進め生産性や品質のカイゼン活動を追求する方針だ。

ケーアイ工業では技術力を生かし「メタルアート」を制作している(クリックで拡大)

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