炭素繊維強化樹脂の市場は2倍超に成長、自動車ではプラットフォーム共通化が後押し:材料技術
富士経済は2019年3月7日、グローバルでの炭素繊維複合材料の市場調査結果を発表した。ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維複合材料の2030年の世界市場は、2017年比2.6倍の3兆5800億円に拡大する。自動車や風力発電ブレード、航空機、建築や土木で採用が拡大する見通しだ。
富士経済は2019年3月7日、グローバルでの炭素繊維複合材料の市場調査結果を発表した。ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維複合材料の2030年の世界市場は、2017年比2.6倍の3兆5800億円に拡大する。自動車や風力発電ブレード、航空機、建築や土木で採用が拡大する見通しだ。
用途別に2030年の市場規模を見ると、自動車は2017年比5.6倍の5605億円、航空機は同2.5倍の1兆4261億円、建築土木では同2.9倍の5469億円となる。
自動車では、各社が自動運転関連技術の開発に注力しているため、CFRP(熱硬化性の炭素繊維強化プラスチック)やCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性プラスチック)の採用計画が先延ばしになっているという。2025年ごろにはCFRPやCFRTPの利用技術が向上し、量産モデルへの採用拡大が予想されるとしている。軽量化ニーズの強い電気自動車の普及や、プレミアムモデルの燃費改善といった目的が採用を後押しする。水素タンクなどの圧力容器向けの炭素繊維複合材料も燃料電池車の普及に連動して成長する。中国ではトラックやバスで燃料電池車の需要が高まっているという。
現在は欧州自動車メーカーの開発や採用が先行しているが、中国自動車メーカーの採用拡大も見込まれる。自動車メーカー各社は、車体プラットフォームの共通化を進めており、採用が始まれば急激に需要が拡大すると見込む。長期的には、自動車向けで端材利用のCFRP、CFRTPの市場も拡大するとし、2030年には2017年比5.6倍の5605億円の市場規模を予測する。
航空機用は、加工性よりも品質を重視した材料選定が一般的で、信頼性の高いプリプレグ成形加工品が主流となっている。CFRPは一次構造材や二次構造材、内装材、ヘリコプター、軍事機など幅広く採用されている。CFRTPは、エンジンなど耐熱性が求められる部品や、小型の一次構造材部品で使われる。
今後、短中期的には、大型機やボーイング「797」などのシングルアイル機体(通路が1本の航空機)、リージョナルジェットやビジネスジェットの生産本格化などによって需要が拡大する見通しだ。また、端材のリサイクルも進みそうだ。エアバスは2020〜2025年にかけて生産工程で発生したCFRPの端材の95%をリサイクル産業に流通させる計画だ。そのうちの5%を航空機部品で採用するという。
材料別の市場を見ると、CFRPの比率が圧倒的に高く、2030年には3兆2018億円に市場規模が拡大する。CFRTPは、CFRPと比べて成形加工時間を大幅に短縮できることから注目を集めている。
使用する炭素繊維は短・長繊維と連続繊維がある。短・長繊維はATMなどの静電部品、自動車のギアや生産ラインなどの軸受に使用する摺動(しゅうどう)部品、家電やOA機器の部品、自動車のフレーム部品などで採用されている。今後、自動車向けでは、車載カメラなどで電磁波シールド対策部品として採用が拡大するという。連続繊維の化工品は、2025〜2030年に自動車の骨格部品での採用が有力視されている。
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