パナソニックが挑むデザインによる変革、カギは「日本らしさ」と失敗の量:デザインの力(4/4 ページ)
家電の会社から「暮らしアップデート業」へと変革を進めるパナソニック。その中で新たな価値づくりの1つの重要な切り口と位置付けているのが「デザイン」である。新たにパナソニック全社のデザイン部門を統括するパナソニック デザイン戦略室 室長に就任した臼井重雄氏に、パナソニックが取り組むデザインによる変革のついて聞いた。
デザインに求められるビジネス価値
MONOist デザインの担う役割がこれだけ広がれば、求められる成果も大きくなりますね。まずはどのようなところを目標に置いていますか。
臼井氏 いかに新しいものをデザイン部門発で生み出せるかというのが、重要な目標だと考えている。既に、先行したアプライアンス社では、事業化を進めているものもあり、規模の大小はあるにせよ、2020年や2021年には事業として成立するものを生み出していきたい。イノベーションというと大きな期待をかけられることもあるが、サイズ感をどう設定するかが大事だ。適正なビジネスインパクトの共有と、体制作りなどが重要になる。
MONOist イノベーションを実現するにはどういう要素が必要だと考えますか。
臼井氏 イノベーションという言葉が示す意味は幅広く、必ずしも技術力は必要ないという解釈もあるが、パナソニックが取り組む上ではやはりテクノロジーを組み合わせたものが必要になると考えている。
既存の技術の組み合わせを変えるだけであれば、いくらデザインを基盤とするといってもすぐに追従される。むしろ新規技術に対して早期からデザイン部門が参画することで、世の中に受け入れられる形を作り上げ、イノベーションを実現するという流れが理想だ。
例えば、イタリアのミラノで開催されているデザイン賞である「ミラノサローネ 2018」でパナソニックは「ベストテクノロジー賞」を受賞した。「Air Inventions(空気の発明)」という作品だが、これは水滴をモチーフとした直径20メートルのエアドームに、空気を浄化するデバイス技術「ナノイーX」と、高圧の圧縮空気を用いて水を微細化する「シルキーファインミスト」を組み合わせて「ミラノの街中で、最も美しく澄んだ空間」を創出したものだ。ドーム内部には4Kレーザープロジェクターと高解像度魚眼レンズを用いた映像を投影し、ミストに包まれた幻想的な空間を演出した。
われわれはこの作品を、形のない空気に技術を加えそれを体験する「体験価値」をデザインしたものだと捉えていたが、審査員からは「素晴らしい技術だ」と評価を受けた。つまり、デザインを切り口にしつつも、新しい技術を加えなければパナソニックらしいイノベーションは実現できないということだと理解した。
その意味ではデザインも理解できエンジニアリングもできるデザインエンジニアと呼ばれる存在が今後ますます重要になる。これらの人材育成を強化していくとともに、先述したように人材交流を進め、デザイン部門と技術部門を緊密に結んでいく。そうすることで、あたかもデザインエンジニアのようなチームを作ることもできると考えている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- イノベーションを生む「デザインマネジメント」の力とは【前編】
「デザインが経営を革新する」というと、少し大げさだと思うだろうか。しかし、実際に「デザイン」を基軸にして新たな視座に立つことにより、多くの事業革新につながるケースがあるという。「デザインマネジメント」を切り口に多くの企業の事業革新に携わるエムテド 代表取締役の田子學氏に話を聞いた。 - イノベーションを生み出す「デザイン思考」とは
現在、日本の製造業で求めらているイノベーションを生み出す上で重要な役割を果たすといわれているのが「デザイン思考」だ。本稿では、デザイン思考が求められている理由、デザイン思考の歴史、デザイン思考と従来型の思考との違いについて解説する。 - 第4次産業革命が起こす価値の創造、新たな羅針盤は「デザイン志向」
第4次産業革命により製造業のビジネスモデルは大きく変化しようとしている。しかし、日本の製造業では技術論や工場内革新などで終始し、新たなビジネスモデル構築で苦戦する様子が見える。その中で急浮上しているのが「デザイン」の持つ力を見直す動きだ。経済産業省で「第4次産業革命クリエイティブ研究会」を推進する商務情報政策局 生活文化創造産業課 課長の西垣淳子氏に話を聞いた。 - パナソニック「HomeX」が示す、これからの製造業が生きる道
パナソニックは100周年を記念して開催した初の全社ユーザーイベント「CROSS-VALUE INNOVATION FORUM 2018」(2018年10月30日〜11月3日)を開催。本稿では「HomeX」について説明したパナソニック ビジネスイノベーション本部長の馬場渉氏の講演内容を紹介する。 - モノづくりをアジャイル型に、パナソニックの新モノづくりビジョン
パナソニックは2018年7月20日、技術セミナーを開催し100周年に際し新たに定めた「モノづくりビジョン」について説明した。