検索
連載

パナソニックが挑むデザインによる変革、カギは「日本らしさ」と失敗の量デザインの力(3/4 ページ)

家電の会社から「暮らしアップデート業」へと変革を進めるパナソニック。その中で新たな価値づくりの1つの重要な切り口と位置付けているのが「デザイン」である。新たにパナソニック全社のデザイン部門を統括するパナソニック デザイン戦略室 室長に就任した臼井重雄氏に、パナソニックが取り組むデザインによる変革のついて聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

「パナソニックらしさ」とは何か

MONOist 「暮らしアップデート業」となると消費者が向き合うのが、個々の製品ブランドというよりもパナソニックという企業になってくると思います。その中で「パナソニックらしさ」を示すデザインとはどういうことだと考えますか。

臼井氏 マツダの「魂動デザイン」※)のように、企業を象徴するデザインアイデンティティーを作るというのは、経営陣からも言われていることだが、パナソニックはそれこそ炊飯器から温水便座まで幅広い製品を扱っており領域が非常に広い。さらに、全社となると、部品や建材などさらに広がることになる。だからこそ暮らしを丸ごとアップデートできるという強みにもなっているが、1つのデザインアイデンティティーを作り上げるのは苦労が伴う。

※)関連記事:「魂動デザイン」は足し算ではなく引き算

 例えば、無印良品などを見るとさまざまな商品があるにもかかわらず、タッチポイントにおいては、統一的なデザインやメッセージを発信できている。そういうことを考えるとパナソニックにおいてもできなくはないはずだ。

 ただ、こうした統一的なデザインを考える上で、現在のパナソニックの課題になっているのが「組織の壁」だ。例えば、1つの製品を考えた場合でも、製品のブランディングは事業部、コミュニケーションのブランディングはマーケティング本部、展示会などでのブランディングはブランドコミュニケーション本部が管轄している。そのため、それぞれのタッチポイントでメッセージが異なってしまい、統一的なメッセージを表現できていないのが現状だ。こういう状況を考えると、1つのデザインアイデンティティーをメッセージとして発信することは難しく、まずはこの組織的な壁を破ることが必要だと考えている。

 Hi-Fiオーディオの「Technics」やデジタルカメラの「Lumix」、理美容製品の「パナソニックビューティー」など小さいカテゴリーの中では、こうしたメッセージを統一する取り組みができ始めている。こうした小さいカテゴリーで成果を生み出しつつ、これらを組み合わせてパナソニック全体でも統一的なメッセージを表現できるようになればよいと考えている。

「日本らしさ」がパナソニックのデザインの源流に

MONOist 「パナソニックらしさ」というとどういうものになると考えますか。

臼井氏 アプライアンス社のデザインセンターをなぜ京都に集約したのかということにもつながるが、1つの原点としてあるのは「日本らしさ」ということだと考える。

photo
京都に集約したパナソニック アプライアンス社 デザインセンターの外観(クリックで拡大)出典:パナソニック

 私は2007年から約10年間、中国に赴任していたが、そのときに強く感じたのが、「パナソニックは日本を代表するブランドの1つで、海外からは日本らしさを求められている」ということである。海外展開する中で海外の人たちが「なぜパナソニックを選ぶのか」を考えると「日本らしさ」ということは外せない。その中で「日本らしさ」が示す精緻感や人を察する気配りなどは、パナソニックがデザインを作る上で1つのよりどころになっている。

 こうした点は、海外の他のグローバルブランドにはまねできないことで、これらのブランドとの差別化ができるポイントだと考えている。

MONOist IoTなどによりソリューション提案などが増えていくと、具体的にはどのような点でデザイナーの役割は変わるのでしょうか。

臼井氏 トータルのメッセージやUI(ユーザーインタフェース)など最初からしっかりと決めて取り組まなければならない範囲もあるが、ソリューションやサービス化などの動きになると、最初から全てを想定して作り込むということができなくなる。その中ではデザインもとにかくスピード感を重視して、トライ&エラーを繰り返し、アジャイル型の開発手法で進める必要がある。

 アジャイル開発というと、モノづくりの感覚からすると「質の悪いものを出す」と見られがちだが、本質はトライ&エラーを先に繰り返すことで品質をより高めるということだ。とにかく「失敗してもよいので挑戦してほしい」ということを訴えている。ただ、まだまだ失敗が少ない。これは挑戦が少ないということだ。こうしたマインドセットの変革に取り組んでいく。

 さらに、「モノからコトへのサービス化」などが進むと、一度開発したら終了ではなく、継続的にデザイナーがサポートし続ける必要も出てくる。こうした場合にどのような働き方とし体制を作るべきかという点については、現状の課題である。また人材的にもソフトウェアに関するデザイナーの不足感がある。これらの新たな状況における体制については、今後もさらに検討を進めていく。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る