「魂動デザイン」は足し算ではなく引き算:クルマから見るデザインの真価(1)(1/4 ページ)
車両デザインを通して、「デザイン」の意味や価値を考えていく本連載。第1回はマツダの「魂動(こどう)デザイン」を取り上げる。「CX-5」と「アテンザ」の“大幅改良”から、魂動デザインが目指すものが見えてきた。
前口上(のようなもの)
デザインという言葉にはどのようなイメージをお持ちだろうか? 言葉そのものは、今や特殊性や専門性はなく、誰もが口にしたことがあると思う。ティッシュペーパー並にコモディティと化しているが、ビジネスの中で「デザイン」という言葉に含まれる意味や期待される役割は年々広くなってきている。
ひと昔、ふた昔前なら「デザイン=色や形」という、平面や立体に付随するアーティスティックな面での理解が圧倒的であっただろう。しかし最近では、「デザイン思考/デザイン・シンキング」や「デザイン経営」といった言葉も現れ、デザインの対象はモノからコトまでの一連の顧客経験にまで拡大している。
プロダクトデザインを中心に置いたモノづくりに関わる筆者としては、この広義のデザインに、多くの人を巻き込んでいきたいと思っている。そう、意志決定を行う経営者からエンドユーザーに一番近い販売の場にいる人まで。
モノやコトの送り手から、受け手としての生活者に立ち位置を変えて考えてみると、モノも情報も日々増え続け、ソーシャルメディア全盛の現在は、恐ろしいほどの勢いでどんどんと流れていくのを実感する。しかしわれわれの1日の持ち時間が増えているわけではない。「カタチや色」に落とし込むのはデザイナーの役割であるが、「デザインを、意図をもって使う」ということでは、あらゆる部門の人たちにも意識を持ってもらう必要がある。そうでなければ商品としてのモノやコトの価値を、届けたいユーザーへ届けることが難しくなっている時代である。
ここMONOistの読者は、何らかのエンジニアリングに関わる方が多いので、デザインに関する連載となると、造形や素材といったモノに付随する話の方がなじみやすいのかもしれないが、広義でのデザインへも少しでも興味を持っていただければうれしく思う。
そのようなわけで今回からの連載では、車両デザインをテーマとしつつ、個々のクルマのデザインを観察して解説するということだけでなく、デザインが及ぼす影響、ビジネスの中でのそのデザインの意味や価値といったものを併せて考えてみたい。
マツダ「魂動デザイン」
第1回目はマツダが展開してきている「魂動(こどう)デザイン」を取り上げてみたい。
2014年11月にSUV「CX-5」とフラッグシップモデル「アテンザ」の大幅改良が発表され、同年12月の年末年始休みとなる直前にメディア向けの新型車説明会が開催された。いわゆる「マイナーチェンジ」である。しかし、マツダではマイナーチェンジという表現をしないという。その理由を聞いていくと、1つのクルマのモデルライフだけで捉えるのではなく、マツダブランド全体の進化・深化ということへ今のマツダがこだわっていることを感じる。
2012年2月発売のCX-5で、新世代技術「SKYACTIV」とセットで新しいデザインテーマである「魂動−Soul of Motion」の採用が始まった。このCX-5を皮切りに、アテンザ、「アクセラ」、「デミオ」が続き、2015年に発売される「CX-3」、そしてND型「ロードスター」で、魂動デザインの一通りのラインアップがそろうことになる。群(あるいは面)として魂動デザインが見えてくるようになったことで、マツダのクルマやブランドはどのように変化してきているだろうか。
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