日本製造業の逆転シナリオは“脱自前主義”、「ものづくり白書」の提案:ものづくり白書2018を読み解く(後編)(6/6 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2018年版ものづくり白書」が公開された。本稿では、本文の第1部「ものづくり基盤技術の現状と課題」の内容を中心に、日本の製造業の現状や主要な課題、課題解決に向けた取り組みなどを2回に分けて紹介する。後編では、主要課題の解決を経営主導で実施していくための対応策などを紹介する。
Connected Industries実現に欠かせないプレイヤー
地域企業や中小製造業は、Connected Industries実現に向けた担い手として重要な存在であり、これらの企業がリアルデータやデジタル技術を活用することを通して生産性向上やビジネスモデル転換を図っていく取り組みが地域でも多く生まれてくることが期待される。また、Connected Industries推進による効果を最大化するには、サプライチェーン全体でのデータのやりとりを行うなど全体が“つながる”ことが鍵を握っており、中小企業における的確な対応が特に重要となる。
地域企業や中小製造業においてもConnected Industriesを推進するメリットとして、例えば、IoTやロボットなどの導入によって単純作業や重労働を省力化し、労務費を削減することによる人手不足解消の実現、人工知能などによって「匠の技」を見える化し、若い社員のスキル習得を支援することによる技能継承などがある。さらには、職人の技能や創造性をデータ化し、それを生産設備につなぐことで多品種、単品、短納期加工を実現し、新規顧客の獲得と利益拡大の実現につなげることが想定される。
IoTやAIなどのデジタル技術を現場カイゼンのノウハウとともに中小製造業に指導できる専門人材も必要となってくるが、ITとOT(制御技術)双方のスキルを習得し実際の企業課題を解決できる指導者は日本には多くはない。これは、ITとソフトウェア側の知識やスキルと、OTおよび現場側の知識とスキルとでは、そもそもの考え方や体系自体が大きく異なることがある。
経済産業省では、専門人材を指導者として育成し、実際に中小製造業の経営課題を解決するために伴走型でコンサル支援する事業を実施している(スマートものづくり応援隊)。2016年度から開始して以降、2017年度には指導者を育成および派遣する25拠点を全国に設けており、2018年度は40拠点への拡大を目指している。
今後は、各民間団体や、よろず支援拠点、地方版IoT 推進ラボ、さらには金融機関などとも連携して、地域や中小製造業におけるデジタル技術活用の普及を幅広く横断的に実施していくことが必要となってくる。
先進事例を約150事例掲載、ぜひ一読を
本連載では、大規模な環境変化に伴って全ての経営者が持つべき4つの危機感を紹介した。また「人手不足の中での現場力の維持と強化」「付加価値の獲得」という直面する2つの主要課題を取り上げた。その課題解決として「現場任せにせず経営力を発揮することで、デジタル時代の現場力を再構築する」「データを介して、機械、技術、人などさまざまなものがつながることで、新たな付加価値の創出と社会課題の解決を目指す」など経営主導による対応策を紹介した。ものづくり白書では、具体的アクションとして参考になる先進150事例を掲載しており、ぜひ一読してほしい。
筆者紹介
翁長潤(おなが じゅん)
フリーライター。証券系システムエンジニア、IT系雑誌および書籍編集、IT系Webメディアの編集記者の経験を生かし、主にIT・金融分野などで執筆している。
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