延命ではなく子育てを、パナソニックが目指す“アップデート”の向かう先:MONOist IoT Forum 大阪2019(前編)(2/2 ページ)
MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパン、TechFactoryの、アイティメディアにおける産業向け5メディアは2019年1月22日、大阪市内でセミナー「MONOist IoT Forum in 大阪」を開催した。大阪での同セミナー開催は3度目となる。本稿では、前編で基調講演に登壇した、パナソニック 専務執行役員 CTOの宮部義幸氏の講演「100年企業のイノベーション〜次の100年に向けて〜」の内容を紹介する。
101年目のパナソニックはSoceity 5.0で何を目指すか
ただ、宮部氏は「以前は、超スマート社会はピンチだとよく話していたが、今はチャンスがあると考えている。超スマート社会の既存のさまざまな価値が薄められる危険性はあるが、一方で、ありとあらゆるモノにサイバー側の価値を乗せることで、もともとの価値を高めることができるようになる。例えば、今自動車を買う場合に、新たな機能として訴えられているもののほとんどがこのサイバー側の価値で得られたものになっている。こちらの価値が支配的になってきており、これらをどう取り込んでいくかが重要になっている」とSociety 5.0における製品提供の在り方について語る。
その中で、パナソニックはどういう取り組みを進めていくのか。パナソニックでは100周年に際し、家電の会社から「暮らしアップデート業」になると宣言している※)。
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宮部氏はこの背景として「モノから人間中心の社会へと回帰を示したことがポイントだ。パナソニックでは考え方の基盤として“水道哲学”がある。これは物質面での豊かさに貢献した。しかし、今モノがいきわたり、新しいものが必要ではなくなってきている。一方でモノを大量に作って大量に売ることに最適化した結果、失われたものも多い。例えば昔は、米や酒などの食材は家庭で使い切るタイミングを見計らって米屋や酒屋などが持ってきてくれた。一方で今はスーパーマーケットなどに買いに行くのが一般的だ。ラストワンマイル経済圏が失われた面などもある」と考えを述べる。
こうした「人間中心」で「暮らしをアップデートする」ことを象徴するものとして発表したのが暮らし統合プラットフォーム「HomeX」である。
「HomeX」は、住まいや暮らしを対象とした統合基盤で、暮らしを構成するさまざまな機器の情報を統合し、そこに住まう人を中心に最適化された環境の構築を目指すものである。各種機器などで同じユーザーインタフェースやデータ収集、活用を実現するソフトウェア「HomeXプラットフォーム」を用意し、これらを各種機器に展開することで、統一環境を作る。既にパナソニックホームズの都市型住宅に搭載され、販売されている※)。
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「HomeX」の実現については「パナソニック自体は従来のモノづくりに最適化した仕組みとなっていた。しかし、5.0時代では今までのやり方は役に立たない。そこで、小さくても機能が完結した、しがらみのない組織を作ることが必要だった。そこで作ったのが『Panasonic β』である。シリコンバレーに設立し、そこで『HomeX』の基本的な形を作ることができた。この新しい時代の価値創出を身に付けるための組織だと考えている」と宮部氏は述べている。
企業の年齢は人間の年齢と同じ
宮部氏は「パナソニックは100年企業の仲間入りをしたわけだが、企業の年齢は人間の年齢と大体一致している。10代の企業は非常に若く元気がよく、20代は社会に価値を示し一定の役割を安定的に担えるようになっている。80代以上というと人間ではいつ死ぬか分からないような年齢である。その中で、パナソニックが100年以上も今の姿で延命を続けるのか、というと難しいのが現状だ」と考えを述べる。
それでは101年目以降のパナソニックの役割をどう考えるのか。宮部氏は「新たに子どもを生み、育てていくという発想が必要だと考えている。それが『Panasonic β』である。この子どもが他の10代、20代の企業と張り合えるようにしていく。親と違う道を歩んでもそれを支えていく。そういう姿勢が必要だ」と宮部氏はイノベーションについての方向性を語る。
パナソニック創業者の松下幸之助氏は「売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永久の客を作る」という言葉を残したという。宮部氏は「従来の世界では、モノをできたときから価値が下がり続けるということが起こっていた。それはモノづくり企業にとっても大変むなしいことだ。買ってもらってからも価値を上げられるような仕組みを作りたい。それが『暮らしアップデート業』を目指すということだ」と宮部氏は述べている。
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