社運をかけたダンパー開発の功績者が主犯、川金HDの不適切検査:製造マネジメントニュース(2/2 ページ)
川金ホールディングスは2019年2月7日、同社子会社で発生した免震・制振用オイルダンパーの不適切検査事案について、調査報告書と再発防止策を発表した。調査報告書では免震・制振用オイルダンパー事業に対する当時の経営判断や開発体制など多くの問題点が指摘され、現場が不正を犯す背景が浮き彫りとなった。
社運をかけたダンパー事業、未経験の2人に開発を託したことが発端に
初回出荷から検査データ改ざんが行われていたことが同事案の特徴となる。その背景には当時の光陽精機における経営状況や免震・制振用オイルダンパーの開発体制が大きく関わっていたと調査報告書から読み取れる。
同社は2000年に新規事業として免震・制振用オイルダンパー事業に参入した。顧客である某社(以下、b社として記載)からの開発依頼を受け、トグル制震装置用オイルダンパーの開発を開始した。
しかし、当時の同社は油圧シリンダーに関するノウハウは有しているがオイルダンパーに関する技術はなく、ゼロベースからの開発となった。また、業績が悪化していたため「必ず最終顧客が定めた納期までにトグル制震装置用のオイルダンパーの納入を完了し、新規事業としてオイルダンパー事業を軌道に乗せたいという思い」が社内にあったとし、同事業は社運をかけたプロジェクトとして位置付けられていたことがうかがえる。
しかし、同事業に配属された人員は「当時、技術部設計課の係長であるAと、入社5年目の担当者にすぎないBの2人」のみで、両者をオイルダンパーの開発に集中させる開発体制をとった。さらに、オイルダンパーの性能を左右するバルブ開発はほぼBのみが担当していたとし、同社のオイルダンパー事業はBの技術力に大きく依存する状況にあった。
そのような状況下においても、AとBによる「開発に向けた献身や高い技術力が功を奏し、光陽精機は約半年という短い期間でトグル制震装置用のオイルダンパーの開発に成功した」とし、検査に使用する試験機についても彼らが独自に製作した。
一方で、開発を担当したAとBには多大な負荷があったと調査報告書は記している。「自力で一からトグル制震装置用のオイルダンパーを開発したとはいえ、実際には、他社図面を元に見よう見まねで開発を進めたにすぎず、新製品の開発について、豊富な知識や経験を有していたわけではない。(中略)初めて開発したトグル制震装置用のオイルダンパーについて、b社から、減衰力の理論値と実測値との誤差を±10%以内とするよう求められた。(中略)オイルダンパーの製造、量産段階において、安定的に、減衰力の理論値と実測値との誤差を±10%に収めるための解決策を見つけることができなかった」。
調査報告書では、AとBが自らの技術力と迫る納期、会社からの期待やプレッシャーに苦慮したことが同事案の発端とみる。また、「オイルダンパーの製造過程の全てが両者の下でブラックボックス化している状況下では、減衰力の実測値を書き換えたとしても、これが不適切な行為であるとして社内に露見する可能性も低いとの見解に至った」ことも動機の1つとして勘案している。
オイルダンパーの開発を成功させ同事業が軌道に乗り始めると、AとBに社内から「高い技術力への評価」が募り始めた。その影響もあり、「両名の行動に対するチェックや監督が必要であるという発想自体が、光陽精機の社内に発生しなかった」ことが同事案の早期発覚を妨げた原因となる。
その後、AとBは同社内で要職に就く人事となったが、後任の検査担当者もAとBが行ってきた検査業務が「不適切であるとの疑問を何ら抱くことなく、所与の業務フローとして、本件不適切行為を継続していった」ことが同事案を拡大させた。
川金ホールディングスが発表した不適切検査の要因まとめと再発防止策
川金ホールディングスは同事案が発生した要因について、光陽精機では「オイルダンパーの開発がブラックボックス化」「量産時に安定的な性能を発揮できるか検討不十分」「受注・納期を優先しすぎた」などがあったとまとめた。
また、営業を担当する川金コアテックについては「オイルダンパー事業への当事者意識不足、品質保証体制に踏み込まず」、両社を統括する川金ホールディングスについては「企業理念、品質方針などの展開不足」などを課題として挙げた。
川金ホールディングスが発表した光陽精機に関する再発防止策としては、「オイルダンパー事業の抜本的改革」「社会的に担っている役割・責任の再認識と意識改革」「製品の受注検討プロセスの再構築」「オイルダンパーの生産計画・生産管理の仕組みの改善」「新規開発製品の設計・開発プロセスの改善」「製品の検査体制、品質保証体制の再構築」などを挙げた。
その他、川金コアテックでは「設計検討段階及び受注段階での品質管理体制の強化」「光陽精機の製品の品質に対する監査体制の強化」など、川金ホールディングスでは「グループの理念、品質方針、行動指針等のグループ各社への具体的展開」「グループのコンプライアンス体制の強化」などを策定している。
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