マイクロニードル型「貼るだけ」人工膵臓のプロトタイプを開発:医療機器ニュース
名古屋大学は、エレクトロニクス制御フリー、タンパク質フリー、ナノ粒子フリーのマイクロニードル型「貼るだけ」人工膵臓のプロトタイプを開発した。
名古屋大学は2019年1月16日、エレクトロニクス制御フリー、タンパク質フリー、ナノ粒子フリーのマイクロニードル型「貼るだけ」人工膵臓のプロトタイプを開発したと発表した。同大学環境医学研究所 教授の菅波孝祥氏らが、東京医科歯科大学、神奈川県立産業技術総合研究所と共同で研究した。
これまで、機械や電気駆動を必要としない自律型のインスリンポンプの人工膵臓の開発では、グルコースオキシダーゼやレクチンなどのタンパク質を基材とする試みがなされてきた。しかし、生体由来材料であるため、タンパク質変性に伴う不安定性や毒性が不可避で、いまだ実用化には至っていない。
同研究グループは、タンパク質を一切使用しない、完全合成型のグルコース応答性材料のボロン酸ゲルを用いた解決法を提案。このゲル表面の薄い脱水収縮層は、血糖値に応じたインスリン放出の制御機構として作用し、「人工膵臓」様の機能を果たす。
今回は、このグルコース応答性ゲルと再生絹フィブローインを融合したマイクロニードル型の人工膵臓のプロトタイプを開発した。フィブローインは優れた力学的特性、生体適合性、化学的に可変な生分解性を持ち、手術糸や硬組織欠損部代替材料として認可され、広く利用されている生体材料だ。
今回の開発に当たって、グルコース応答性ゲルとの融合材料化のための化学構造の最適化、ミクロ相分離を制御したプロセスの開発(特許出願)、内部ミクロ構造の評価、分解安定性、力学的特性、皮膚刺入性、血糖値変動に応答したインスリンリリース挙動、マウス皮膚への装着方法などについて検討した。
その結果、水中で2カ月以上安定し、かつ、血糖値依存的なインスリン供給性能が週単位で持続するマイクロニードル材料技術を開発。この「マイクロニードル融合型人工膵臓」の技術には、免疫毒性の回避、安定性(環境耐性、長期保存、滅菌処理耐性など)、迅速な応答性(低血糖を避け正確な血糖値コントロールに有利)などの利点がある。また、マイクロニードル化によって、従来の技術と比べ、低侵襲性、経済性、審美性なども格段に改善する。今後、動物での安全性、治療効果の実証を経て、実用化へ向けた研究を進めるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 植込み型補助人工心臓システムの製造販売承認を取得
日本メドトロニックは、重症心不全の治療に用いられる「植込み型補助人工心臓システム HVAD」の製造販売承認を取得した。ポンプ内部のインペラと軸部は非接触で、血球成分へのダメージを低減することが期待されている。 - 次世代型補助人工心臓の開発へ、医療機器ベンチャー企業を買収
帝人が、補助人工心臓を開発するメドテックハートを買収すると発表。株式譲渡契約により、帝人はメドテックハートが開発を進める体外型補助人工心臓「MT-Mag」の日本および海外での承認取得、販売に向けて、本格的な取り組みを開始する。 - 耳介後部ケーブルを用いた補助人工心臓の装着に成功、国内初
大阪大学は、耳介後部ケーブルを用いた新しい補助人工心臓装着に成功した。末期心不全で移植適応とならない患者からの「患者申出療養制度」の申し出により、医療機器としては国内初となる承認を受けて実施された。 - エレクトロニクスフリーの人工膵臓、血糖値に合わせて自律的にインスリン放出
名古屋大学が、機械や電気による駆動を必要としない、自立型の「人工膵臓」を開発した。この人工膵臓は、健常および糖尿病マウスにおいて3週間以上持続して、糖代謝を良好に制御した。従来の機械型膵臓に比べ、安価で使用負担も軽減する。 - 2016年度の人工臓器市場に関する調査結果を発表、前年度比1.3%増
矢野経済研究所は、メディカルバイオニクス(人工臓器)市場についての調査結果を発表した。2016年度の市場規模は6323億9600万円で、2017年度は6503億1500万円と予測する。