マイニングASICビジネスは先行き見えず……GMOが特損240億円で撤退:製造マネジメントニュース
マイニングASICの存在が岐路に立たされている。独自のマイニングASICを開発したGMOインターネットは、仮想通貨マイニング事業で約355億円の特別損失を計上した。マイニングASIC開発で最大手の中国Bitmainも上場手続きが難航していると報じられており、マイニングASICを開発する企業の経営は難しい舵取りを迫られている。
マイニングASICの存在が岐路に立たされている。インターネットインフラ・仮想通貨などの事業を営むGMOインターネットは2018年12月25日、仮想通貨マイニング事業で約355億円の特別損失を計上したと発表した。
同年6月に発表していた同社独自のマイニングASIC「GMO 72b」を搭載したマイニングマシンの開発事業は約240億円の特別損失を計上し、同事業から撤退する。発表からわずか半年間の事業展開だった。
また、マイニングASIC開発で最大手の中国Bitmainも香港証券取引所への上場手続きが難航していると報じられており、マイニングASICを開発する企業の経営は難しい舵取りを迫られている。
ビットコイン相場の大幅下落によりマイニングAICビジネスの採算性が見えず
GMOインターネットの仮想通貨事業では自社マイニングも含んでおり、マイニングファームも自社保有している。よって、同社が製造していたマイニングマシンも一部製品を自社ファームへ回す方針を取っており、マシンに在庫が発生した場合でも自社利用によりマイニング利益が発生する見込みだった。
同社社長の熊谷正寿氏は2018年6月に開催した記者会見で、マイニングマシンの開発、製造、販売事業について「在庫リスクがないという点で、非常に優れたビジネスだと考えている」との認識を示し、マイニングをゴールドラッシュにたとえ、「ゴールドラッシュではジーンズやスコップを販売した会社がかなり儲けたという歴史的事実がある。GMOでは(仮想通貨事業によって)金自体も掘るし、スコップも作って売る」と語った。*)
*)関連記事:7nmで独自ASIC……GMOが半導体開発に乗り出す理由(EE Times Japan)
7nmプロセスを採用しハッシュパワーや電力効率に優れているとうたったマイニングASIC「GMO 72b」の開発では、「日本の半導体設計のノウハウと英知を結集した」(熊谷氏)とし同社内に半導体設計チームまで擁したという。同チップ開発プロジェクトに対する投資額は、「100億円に近い数十億円規模」(熊谷氏)。ファウンドリーの7nmプロセス製造キャパシティーが逼迫(ひっぱく)しているため、製造ラインの確保に熊谷氏自らが尽力していたと明かしていた。
しかし、同社を含めたマイニングマシン開発各社の思惑は仮想通貨相場の大幅下落によって崩れ去ることとなった。ビットコイン(BTC)/円は2017年12月に約240万円を伺う最高値を付けた後、下落基調が続き2018年12月25日の終値は約42万円。この下落要因として、ビットコインキャッシュ(BCH)のハードフォーク(分裂)を嫌気した売りや、採算悪化に耐え切れなくなったマイナーが退場し需給悪化が加速しているためという読みもある。
GMOインターネットが発表した自社マイニング事業特別損失の計上理由にも、「足元の仮想通貨価格の下落、想定を上回るグローバルハッシュレートの上昇により想定通りのマイニングシェアが得られなかった」と記載されており、マイニングマシンの開発事業については「需要の減少、販売価格の下落により競争環境の厳しさが増しており、当該事業に関連する資産を外部販売により回収することは困難」と判断したという。
マイニングASICの価値創出には仮想通貨相場の安定が必須
マイニングASICはその名の通り仮想通貨のマイニングに特化しており、GMO 72bではSHA-256のハッシュ関数を高速に演算することで、ビットコインとビットコインキャッシュのマイニングを実行できる。一方で、裏を返せば当然のことながらマイニングASICの他用途への転用は非常に困難だ。
マイニングASICと同じくCPUよりも高速にマイニングが実行可能なGPUやFPGAについても、2018年に入りマイニング需要が落ち込んだ。しかし、これらチップではもともとの用途に基づく需要が堅調だ。NVIDIAの2019年度第3四半期業績では、ゲーム向けGPUやAI(人工知能)を筆頭としたデータセンター向けGPUが好調で、車載向けでは過去最高の売上高を達成した。また、Xilinxの株価も好業績を受けて上昇基調が続く。
マイニングASICが再び復権し価値を創出するためには、バブルではない仮想通貨相場の安定した成長を欠かすことができない。しかし、各国政府の仮想通貨に関する規制方針が見通せないことや仮想通貨自体の安定性が疑問視される中、市場の健全な成長も予測が難しい。再びマイニングASICに脚光が集まるには高いハードルが設けられている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “プロセッサ”を開発する東芝メモリ、その技術と狙い
東芝メモリがプロセッサの開発を発表した。現業から離れているように見えるプロセッサの開発を通じて東芝メモリは何を目指すのか。今回発表された技術の概要と開発の狙いを聞いた。 - PFNが深層学習プロセッサを開発した理由は「世界の先を行くため」
Preferred Networks(PFN)は2018年12月12日、ディープラーニングに特化したプロセッサ「MN-Core(エムエヌ・コア)」を発表した。同プロセッサは学習の高速化を目的とし、行列の積和演算に最適化されたものとなる。FP16演算実行時の電力性能は世界最高クラス(同社調べ)の1TFLOPS/Wを達成した。 - デンソーが新領域プロセッサ「DFP」の開発を加速、米スタートアップに追加出資
デンソーは、同社グループで半導体IPの設計、開発を手掛けるエヌエスアイテクスが、米国のスタートアップ・シンクアイに出資したと発表した。シンクアイは、エヌエスアイテクスが開発を進める、自動運転技術に求められる複雑な計算処理に最適なDFPを効率よく処理する技術を有しており、今回の出資でDFPの開発を加速させたい考え。 - デンソーの「新領域プロセッサ」が開発完了、2019年春から試作品での実証試験へ
デンソーの完全子会社で半導体IPを設計するエヌエスアイテクス(NSITEXE)は2018年12月13日、「第11回オートモーティブワールド」(2019年1月16〜18日、東京ビッグサイト)において、自動運転などに向けた半導体IP「Data Flow Processor(DFP)」のテストチップとテストボードを展示すると発表した。 - Western Digital、プロセッサを発表――RISC-Vを活用
Western Digital(ウエスタンデジタル/WD)は2018年12月4日(現地時間)、オープンソースISA(命令セットアーキテクチャ)である「RISC-V(リスクファイブ)」を採用したプロセッサ「RISC-V SweRV Core」など、RISC-Vに関連する3つのプロジェクトを発表した。 - CPUやGPUと違うデンソーの新プロセッサ、運転中のとっさの判断を半導体で実現
「Embedded Technology 2017」「IoT Technology 2017」の基調講演に、デンソー 技術開発センター 専務役員の加藤良文氏が登壇。「AI・IoTを活用したクルマの先進安全技術」をテーマに、同社が取り組む高度運転支援システム(ADAS)や自動運転技術の開発について紹介した。