世界の空を翔けるホンダの夢、ホンダジェットのエンジン開発:モノづくり最前線レポート(2/2 ページ)
航空、宇宙関係の技術を紹介する展示会「国際航空宇宙展2018東京」のセミナーにホンダの航空エンジン事業子会社であるHonda Aero 社長の藁谷篤邦氏が登壇。「ホンダの夢を世界の空に」をテーマとし、ホンダにおけるジェットエンジン開発について講演した。
航空機エンジン開発でのいくつもの挫折
このコンセプトを実現するためにエンジン開発については、低コストで作ることを目指した。そこで「精密鋳造でコンプレッサーやタービンなどを製造することを考えた」(藁谷氏)。材料については「金属を使うと温度管理が複雑になるので、最初はセラミックを使用しようと考えた。しかし、いろいろ試したがセラミック部分が砕けるなどの要因があり、目標出力の25%までしか達成できなかった。最終的にはセラミックを諦めた」と藁谷氏は開発の苦労について語る。
セラミックの採用を諦めた後は、プロシジョンキャスティングで作成したタービン、コンプレッサーと、スクロール型の燃焼器などを用いた二重反転形式のエンジンを設計した。しかし、同タイプのエンジンは騒音と安全面でも問題があることで開発が中止となった。その後、さまざまな新たな試みを行ったが「結局は推力などの目標に達しなかった」(藁谷氏)。
そこで、基本に戻り一般的なターボファンエンジンに切り替えた。その最初となるエンジンが研究用ターボファンエンジンの「HFX-01」で、このエンジンで初めて、質量、出力ともに目標値を達成したという。しかし、このエンジンはライバル企業の製品と、巡航時の推力や燃費、推重比などを比べると「トレンドには乗っているが、かならずしも優れているとはいえなかった」(藁谷氏)。そこで、さらなる競争力向上へ向けて「HF118-2」の研究開発を始めた。この時、燃費は10%、推重比は20%高めることを目指した。さらに、コスト削減のためにコンポーネント数を最小化して製造することにも取り組んだという。
完成後は飛行試験を実施し、2003年にホンダジェットに同エンジンを搭載し初飛行を行った。この初飛行により研究段階で終了し、いよいよ事業段階へと移ったという。
航空機エンジンを複数の機体メーカーに提供
航空機産業は自動車産業と違い機体メーカーとエンジンメーカーが別々になっている。ただ、ホンダはその中で特殊な存在となっており、ホンダ エアクラフト カンパニーという機体メーカーと、GEとの合弁会社であるエンジンメーカーのGE Honda Aero Enginesの両方を抱えている。ホンダでは2002年頃からGEとのパートナーシップを結ぶ動きが始まり、2004年10月に50対50の出資比率で同合弁企業を設立している。
最初の製品である「HF-120」は、基本的には「HF118-2」の発展型であり既存のエンジンに対して燃費が良く、推重比が高いということを設計の目標とし、さらに通常3500時間というオーバーホール時間を、5000時間に設定するなど長寿命化にも取り組んだ。
初号機が組み上がったのは2009年で、2010年11月に飛行試験を開始した。この1カ月後の12月にはホンダジェットに同エンジンを積み込み、初飛行を行った。2013年12月に米国連邦航空局(FAA)の型式認定を取得し、続いて2015年にFAAから製造証明、2016年に整備認定を取得している。
一般的にはエンジンメーカーは複数の機体メーカーにエンジンを供給しており、ホンダとしてもそれを目指している。ビジネスジェットの世界市場は、年率4%程度で成長しており、規模的には2016年で約2兆円に拡大している。さらに、利益率が高いというのも大きな特徴だ。ホンダエンジンの販売状況をみると2017年には同クラスのエンジンの中では「HF-120」がベストセラーとなり、2018年もトップシェア(9月現在で44%)を誇っているという。今後の見通しは「東アジア市場の拡大が見込まれることから、中国などでの伸長を期待している」(藁谷氏)としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「ホンダジェット」量産1号機を一般公開、2015年に出荷開始
ホンダの航空機事業子会社であるHonda Aircraft Company(HACI)は、世界最大級の航空ショー「EAA エアベンチャー2014」において、同社の小型ジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」の量産1号機を初披露した。 - MRJはいかにして設計されたのか
三菱航空機の小型旅客機「MRJ(Mitsubishi Regional Jet)」の機体設計には、多目的最適化手法や、最適化の結果を可視化するデータマイニング手法が採用されている。MRJの事例を中心に、航空機設計におけるコンピュータ・シミュレーションの活用手法を探る。 - MRJの納入が延期される原因とは? 将来に向けて見えてきた課題
MRJは型式証明の取得の遅れにより納入時期が何度も後ろ倒しとなっている。民間航空機産業に後発として参入する中で出てきた課題は何か。また、この参入は日本の製造業においてどのような意味を持つのか。世界の航空機開発の動向に詳しい東京大学 教授の鈴木真二氏らに話を聞いた。 - 開発期間を従来の半分にしたIHIのCAE実践――ロケットエンジン設計から生まれた「TDM」
IHIでは多目的トレードオフ設計手法などを活用して、設計工程において後戻りが起きない仕組みを構築している。このベースとなるのは、「設計変更のたびに最適解を求めるのではなく、既に求めた解から最適解を選ぶ」という考え方だ。この手法は後戻りをなくす他にも、さまざまな面でメリットをもたらした。 - 日系航空機メーカーは、主戦場のアジアで勝ち残れるか?
企業再生請負人が製造業の各産業について、業界構造的な問題点と今後の指針を解説する本連載。今回はMRJをはじめとしたブームに沸く航空機業界について解説する。 - ホンダジェットのエンジンで中古セスナを再生、共同プロジェクトが発足
小型ビジネスジェット機「HondaJet(ホンダジェット)」に搭載される航空機用ターボファンエンジン「HF120」をセスナの中古ジェット機に搭載し、機体の性能改善と価値向上を目指す共同プロジェクトが発足した。