新生東芝はなぜ「CPSテクノロジー企業」を目指すのか、その勝ち筋:製造業×IoT キーマンインタビュー(3/3 ページ)
経営危機から脱し新たな道を歩もうとする東芝が新たな成長エンジンと位置付けているのが「CPS」である。東芝はなぜこのCPSを基軸としたCPSテクノロジー企業を目指すのか。キーマンに狙いと勝算について聞いた。
経営危機をなんとか切り抜けた東芝の可能性
MONOist 東芝はここ数年経営危機に陥り、メモリ事業(東芝メモリ)を含め、製造業として持っていたフィジカルに近い事業をどんどん切り離していきました。経営危機自体は切り抜けましたが、サイバーとフィジカルの融合という中で、それでも東芝が持つ可能性というのはどこにあると考えていますか。
島田氏 まず外から見ていて可能性があると感じたのがエネルギーの領域だ。電力系統のシステムの多くを担っており、さらに電源についても太陽光、水素など再生可能エネルギーの大半を抱えている。特に電力系統システムのデジタル化とスマート化は今後の大きなテーマとなる。エネルギー問題は、国家安全保障につながる問題であり、これがテクノロジーで解決できる状況にある。そこに大きな可能性を感じた。
もう1つデジタル変革で大きな可能性を感じているのが、東芝テックの持つPOSシステムのデータだ。現在ネット通販企業がキャッシュレス化を積極的に進めているが、彼らが狙っているのが顧客の購買情報やその動態情報だ。それだけ顧客情報の価値が上がっているということだ。東芝テックではPOSシステムでその情報にアプローチできる状況にある。プライバシーの問題やPOSシステムの顧客企業との関係性はあるが、これらをうまく活用する仕組みを作れば、早期に新たなビジネス創出が可能だと考えている。
また、多くのハードウェアビジネスを切り離したのは事実だが、それらのビジネスに対する知見を持った人材が数多く社内に残っている。先ほどデジタル変革におけるビジネスのカニバリゼーションの話をしたが、そういう意味では、ハードウェアビジネスを切り離したことで、逆にしがらみがなくデジタル変革面での勝負はやりやすくなったと感じている。
弱みは“自前主義”
MONOist デジタル変革において、現在の東芝が持つ強みと弱みについてどう考えていますか。
島田氏 強みとしてデジタル変革で勝負する領域については2つの観点がある。1つは、マーケットシェアの大きな領域だ。例えば、エネルギーや水などの領域である。もう1つはテクノロジーの領域だ。音声合成や音声認識など、日本語をベースとしたAI関連技術では東芝は独自の強みを持つ。またロボット技術などもさまざまなものを抱えており、こうしたテクノロジーをベースとしたプラットフォーム化なども可能性があると感じている。
それ以外にもそれぞれの領域でプラットフォーム化できるものがあると考えている。それぞれの領域を個別に整理し、プラットフォーム化すべきかそうでないのかを棚卸しているのが現状だ。これらをデジタルという切り口で再構成し共通言語で話せる環境を作っていく。
一方で弱みとしては、自社内で多くのことができてしまうので、外の力を使うのが苦手という状況がある。自前主義と言ってしまってもよいかもしれない。外部との関わりの多かった事業領域は手放してしまって、限られた顧客ベースでのビジネスを中心とした事業が残ったということも要因としてあるかもしれない。これらを文化の面で変えていきたい。
外への発信という面では、このTIRAなども含めて国際発信を強化したい。日本の技術的な発信力が弱まる中で、海外の技術を受け入れながら、業界団体など国際的な舞台で東芝の知見を発信できるようにし、世界をより前に進める取り組みに貢献していく。
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