スマート工場の“障壁”破る切り札か、異種通信を通す「TSN」の価値:いまさら聞けない第4次産業革命(27)(4/4 ページ)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第27回となる今回は、スマートファクトリー化の大きな障壁を破る技術として注目される「TSN(Time Sensitive Networking)」について考えてみます。
スマート工場の最大の障壁といわれる“あれ”を解消
ただ、現在TSNに期待されているのは、このリアルタイム性以上に、現場の異種環境差を吸収する役割だと考えられています。
TSNにより時間によって通す通信プロトコルを変更する時分割が可能になるの。それによって異なる通信プロコトルの通信を配線などを何も変えずに通すことができるようになるわ。
従来の産業用ネットワークは配線や機器などがそれぞれ必要で、同一ネットワーク上でそれぞれを混在させることはできませんでした。そのため、複数ネットワークを同期させるなど、一元管理する必要があるときなどには大きな負担となっていました。しかし、TSN対応とすることで、同一ネットワーク環境内で、それぞれのネットワークプロトコルの情報が通る時間を規定できるようになります。そのため、複数の産業用ネットワークや、監視カメラなどでも使われるTCP/IPなどのITネットワークの情報を、同一配線で通すことができるようになるのです。
バラバラな環境からデータを収集するための仕組みを入れる負担とか、意味あるデータにするための機器調整とかの負担を減らせるってわけですね。それはすごい。
スマート工場化を進める中で「想定以上に苦労する」という声が多いのが、現場のこのさまざまな異なる環境から一元的に意味のあるデータを吸い上げる苦労です。データを取得する仕組みと、得たデータを意味がある形として整理する仕組みなどに非常に多くの労力がかかります。「機器からデータを取ったはいいがタイムスタンプがバラバラで使い物にならなかった」というのはある意味で誰もが通る道だといえることでしょう。TSNはこうした負担を大きく低減できる可能性があるので、製造現場にとっても大きな注目を集めているのです。
規格そのものがまだ固まっているわけではない
ただ、TSNで注意しないと行けない点があります。
TSNは国際標準化の中でもまだ規格化が進んでいる最中ということね。
TSNは国際標準化が進められており、一定レベルでは規定があるものの、ブレのない形で定義されているわけではないということです。現状のTSNの規格は、自由度のある多くの項目が設定されており、個々の通信推進団体や企業などが優先度などを決められる幅があります。つまり同じTSN対応でも中身が異なるということがまだあり得るわけです。複数のプロトコルを安全に使うためには、これらのすり合わせなどが必要となります。
2018年11月21日に新たにTSNに対応した「CC-Link IE TSN」を発表したCC-Link協会は「TSNそのものの規格内容が動いているのは事実だが、あえて時分割と時刻同期を中心として、世界に先駆けて対応した。規格の動きについては動向を見極めながら対応する」(CC-Link協会 事務局長の川副真生氏)としていました※)。TSNを採用することを考えた場合は、規格の動向には注意しておく必要がある点だけは申し述べておきたいと思います。
※)関連記事:TSN対応のCC-Linkが登場へ、時分割で異種環境差を吸収しスマート工場化を加速
さて今回はスマートファクトリー化の大きな障壁を破る技術として注目される「TSN」について考えてみました。次回も最新の動向に合わせてタイムリーな話題を取り上げたいと思います。
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