「人任せガラパゴス化」した日本、IIoT化に向けて現場が抱える課題:IIoTの課題解決ワンツースリー(1)(2/2 ページ)
産業用IoT(IIoT)の活用が広がりを見せているが、製造現場や日本の産業界ではそれほどうまく生かしきれていない企業も多いのが現実である。IIoT活用を上手に行うためには何が課題となり、どういうことが必要になるのか。本稿ではIIoT活用の課題と成果を出すポイントを紹介する。第1回は現状の課題を洗い出す。
IIoTの基本概念
図1は現時点で理想的と考えられるツールチェーンの階層である。
上位層のERP(Enterprise Resources Planning)システムから何をどれだけいつまでに生産するべきという指示が発行され、MES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)が具体的にどれだけの材料を準備してどのように製造するべきかという作業指示書を発行する。
その作業指示書は紙によって印刷され、それを見ながら人が自動製造機を設定するというのが一般的な日本の製造業である。また、その作業指示通りに実施したこと(40℃で劇薬2杯を投入など)を、作業記録として紙に手で記述して保管するのである。つまり、今の日本にはSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)システムという階層を導入しなかった企業が多く見受けられ、そこに人が多く介在しているのが現状である。
水平方向の連携と垂直方向の連携
下位の階層であるPLCの範囲において、日本では極めて高いレベルでオートメーション化が実現されている。つまり、PLC(Programmable Logic Controller)の階層の横方向はデジタル化がなされているのに対して、縦方向にはデジタル化が進んでいないことを意味している。
MESで発行される作業指示書の内容通りに自動製造ラインで稼働させることを、紙の作業指示書と紙の作業記録を基に、人が介在して行っているのである。工場をスマートにさせるIIoTとは、横方向だけでなく、縦方向にデジタルで一気通貫につなぐことである。
縦方向にデジタル化することによって、現場の作業員がゾーンと呼ばれる3装置程度にまたがる「担当区域」から、「ライン全体」を見渡すという視点の変化をもたらすことができる。チョコ停が発生すると、作業員はタブレットで全体を見渡し、誰が何の修理道具をもって現場に向かうべきか、そういった視点の変化によって生産性を向上させることができる。
生産性だけではなく、品質の確保も高いレベルで実現できるようになる。作業記録が電子化されると、人が後で作業内容を書き換えられなくなるため、不具合を見落とす、もしくは見て見ぬふりをすることができなくなるのである。製薬の世界では、監査証跡(作業記録の徹底した管理)は医薬品の規制で順守すべき重要項目となっているが、インドの方がいつの間にか日本より先を行く事態まで発生している。
工場をインターネットにつなぐことによるメリット、つまりは工場を縦方向にデジタル化するメリットにはこのような点があるのである。
次回は、この縦方向のデジタル化に対し重要な役割を果たすSCADAの概念と機能について、より具体的に迫っていきたい。
著者紹介:
リンクス 代表取締役 村上 慶(むらかみ けい)
1996年4月、筑波大学入学後、在学中の1999年4月、オーストラリアのウロンゴン(Wollongong)大学に国費留学、工学部にてコンピュータサイエンスを学ぶ。2001年3月、筑波大学第三学群工学システム学類を卒業後、同年4月、リンクスに入社。主に自動車、航空宇宙の分野における高速フィードバック制御の開発支援ツールであるdSPACE社製品の国内普及に従事し、国内におけるトップシェア製品となる。2003年、同社取締役、2005年7月、同社代表取締役に就任。
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