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「人任せガラパゴス化」した日本、IIoT化に向けて現場が抱える課題IIoTの課題解決ワンツースリー(1)(1/2 ページ)

産業用IoT(IIoT)の活用が広がりを見せているが、製造現場や日本の産業界ではそれほどうまく生かしきれていない企業も多いのが現実である。IIoT活用を上手に行うためには何が課題となり、どういうことが必要になるのか。本稿ではIIoT活用の課題と成果を出すポイントを紹介する。第1回は現状の課題を洗い出す。

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当たり前になったIIoT

 産業用IoT(Industrial IoT、IIoT)やスマート工場といった言葉がさまざまなところで語られ、多くの人々がその重要性については理解できる段階に来ている。工場および工場内の設備や機器をインターネットにつなぐことに異論を唱える人はもはや少なくなったといえるだろう。

 しかし、その根本である問いにいまだに答えられない企業が多いのも事実だ。「そもそも工場をインターネットにつないで何をするのか」ということである。IoT(モノのインターネット)などで「つながる化」を進めることは手段であり、本質的な目的ではない。しかし、つなぐこと自体が目的化している現状に対して、その先に存在するべき「いかに生産性を向上させるか」の部分に切り込む議論をそろそろ開始すべき段階にあると考えている。

AIはIIoTの20%程度

 最近ではAI(人工知能)関連技術やディープラーニング、機械学習といったキーワードも広がりを見せている。そのため、工場をインターネットでつないだら後はディープラーニングにお任せして生産性を向上させようと考える人もいるようだ。

 工場のさらなる改善に向けてAI関連技術を活用しようという考え方そのものは間違いではない。しかし、欧州で情報収集をしていると感じるが、IIoTにおいてAIが効果を発揮するのは全体の20%程度だろうというのが多くの見方である。

 もちろん、モーターの振動音などから異常を検知して予兆保全をするというのにはAIが向いているだろう。しかし、こうしたことはIIoTがもたらす効果のうちの一部であり、残りの80%はAIに頼らずとも効果を発揮する可能性が十分にある。AI以外の領域でより大きな効果を発揮できるというのがIIoTの特徴であると考える。

人任せガラパゴス化から、人とシステムの一体化へ

 日本の製造業を見ていて感じるのが「日本の製造現場のスキルの高さが逆にオートメーションの可能性を制限してきたのではないか」ということだ。

 大学を卒業した、考える力をもった優秀な人たちが、製造ラインに張り付いて装置やラインの管理を行っている。ちょっとした故障停止(チョコ停)が発生すると、その優秀な人たちがすぐに復帰させる。飲料の製造ラインでちょっとボトルが倒れても、すぐに優秀な人が駆け付けてボトルを立て直し、必要な処置を施してから装置を再稼働させるのである。薬を製造する現場では、タンクをかき混ぜて40℃に達したら劇薬を2杯タンクに入れる、優秀な人たちはこの決められた作業をしっかり確実にやるのである。

 一方で、海外ではそもそも現場の人の能力に依存するような製造ラインを設計しない。チョコ停が発生するとすぐに集中管理センターにエラーが伝達され、そこでどんな問題が発生しているか見極め、必要な人材を必要な場所へ送り込み、復旧の手段もタブレット端末に表示させる。また、タンクをかき混ぜて劇薬を入れるプロセスも、その通りに作業員が作業をしないと、つまり40℃で劇薬を2杯入れないと、次のステップに進めないような仕組みが実装されている。

 その結果、誰が何時何分に、どのプロセスを行ったのか、といったトレーサビリティーまで手に入るようになったのである。そういった、人の能力に依存しない製造ラインを実現する上で、工場をネットにつなぐ必要があったという、日本とはある意味逆の方向からスマート工場化に進んできたといえる。

 このような、現場の人の能力に依存した日本の状況を筆者は「人任せガラパゴス化」と呼んでいる。「人任せガラパゴス化」自体は決して悪いことではなく、むしろ、これまで日本が世界競争に打ち勝ってきた競争力の源泉であった。これは素晴らしいことであり、誇りに思う。

 ただ、これから訪れようとするIIoTやスマート工場といった考え方を採用するには、日本人が苦手とするパラダイムシフトを行わなければならない。すなわち、過去の常識が今の常識ではないことを受け入れる必要がある。そこでキーとなる単語が、生産現場のデジタル化(IIoT化、ペーパーレス化、ツールの階層化)、つまりは人とシステムを一体化させることである。

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